交渉人

1998/10/29 丸の内ピカデリー1(完成披露試写)
サミュエル・L・ジャクソンとケビン・スペイシーが演技合戦を披露。
手に汗握るサスペンスの連続に眠気もすっ飛ぶ。by K. Hattori


 邦題をワープロで打とうとしたら、最初に変換されたのは『公証人』だった。このタイトルは何とかならないのだろうか。これではまるで、ジョン・グリシャム原作の法廷ミステリーのようではないか。原題にある「ネゴシエーター」は今では普通の外来語ですが、エディ・マーフィ主演の『METRO』という映画の邦題が『ネゴシエーター』だったため、本家本元の『THE NEGOTIATOR』では同じタイトルが使えなくなってしまったのです。映画のタイトルが『交渉人』という地味なもので、主演がサミュエル・L・ジャクソンとケビン・スペイシー。はたして、これで客が入るんでしょうか。面白い映画なのに、原題と同じタイトルが使えないのは辛いと思う。

 人質事件で犯人との交渉役となり、事件を解決に導く交渉人(ネゴシエーター)ダニー・ローマンは、警察署内で起こった年金基金の横領事件とそれを巡る殺人事件に巻き込まれ、犯人の濡れ衣を着せられてしまう。かつての仲間たちからは白い目で見られ、味方になってくれる人は誰ひとりいない。彼は事件に深く関わっていると思われる内務調査局のニーバウムを訪ねるが、そこで揉み合いとなって、数人を人質にとって建物に立てこもることになってしまった。ダニーが人質交渉人として指名したのは、隣の地区で自分と同じ人質交渉人として働くクリス・セイビアンだった。「真犯人は自分と同じ警察署内に隠れている。仲間が信用できない以上、信じられるのは他人であるお前だけだ」と言うダニーに、セイビアンは「私はお前が真犯人であろうとなかろうと関係ない。私の仕事は人質を無事救出するだけだ」と応える。ここから物語は、プロの交渉人同士の息詰まる駆け引きと、ダニーに罪を着せた真犯人の追求に移って行く。

 仲間から裏切り者扱いされているダニーと、管轄外の警察で交渉の指揮を執るセイビアンは、ともに周囲から孤立した存在だ。ダニーを演じているのがサミュエル・L・ジャクソン。セイビアンを演じているのがケビン・スペイシー。『評決のとき』でも共演しているふたりが、互いに手の内を知り尽くした交渉人同士の対決を盛り上げる。交渉を打ち切り強行突入をはかろうとするグループを牽制し、FBIの介入を阻止しながら、徐々に事態の核心に迫って行くふたり。どちらも素晴らしい芝居を見せますが、今回はケビン・スペイシーの魅力が一枚上だった。セイビアン役は、彼以外考えられないほどのハマリ役です。このキャラクターを使って別のシリーズを展開できるのでは、と思わせるほど魅力的でした。

 映画の見どころは、男同士の対決とその中で育まれる信頼関係や友情にある。真犯人探しの方は、話がやや未整理でわかりにくいという印象を持ちます。いつの間にか事件が解決しているようで、鮮やかさには欠ける。ただしこれは、この映画の欠点になっていない。中盤以降の緊張感の連続で、ミステリー要素など観客の視野からはじき飛ばされてしまうのです。2時間19分の間、まったく目が離せない映画だということを保証します。

(原題:THE NEGOTIATOR)


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