VISITOR

1998/10/28 GAGA試写室
全編に3DCGを使った本格的なSFアニメーション作品。
絵の完成度が時代錯誤な古めかしさ。by K. Hattori


 「日本初フル3DCGフィギュアニメーション」というのが売り文句の、新作アニメーション。今回映画会社の試写室でお披露目をしたものの、これは劇場用映画ではない。ビデオ・LD・DVD向けに作られた、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)の新作なのだ。11月にWOWOWで放送された後、12月から来年2月にかけてビデオが3本発売され、その後完全版のビデオやDVDが発売される予定になっている。また、作品と連動したフィギュア、小説、サントラ、ゲームなども続々登場するらしい。このようにさまざまなキャラクター商品が発生することを見越して作品を作るのは、テレビのロボットアニメなどではよくあることだし、ハリウッドの特撮映画、例えば『スター・ウォーズ』『エイリアン』『スター・トレック』『スポーン』などでは当然のように行われていることだ。ビデオやLDにさまざまなバージョンが存在し、ファンに向けて何度も同じ商品を売りつけるのも、ハリウッド流の商売術だろう。

 ただし、こうした商売を成功させるには、作品自体にそれなりの力がなければならない。だが僕が観たところ、この『VISITOR』には、商品展開を手広く行って行くほどの力はないと思う。脚本は『機動警察パトレイバー』『ガメラ』『甲殻機動隊』などで映画ファンにもよく知られている伊藤和典だが、話がいくら魅力的でも、肝心の絵がこれではお話にならない。映画にしろテレビにしろ、映像作品でまず観るものの気持ちを引きつけるのは「絵」の魅力です。特にこの作品では、最初から3DCGを売りにしている。にもかかわらず、本作の映像クオリティはあまりにも低いのです。これはビデオ作品だから映画に比べて解像度が落ちるとか、そういう問題ではない。既に『トイ・ストーリー』や『アンツ』を観ている人間にとって、『VISITOR』のCGはあまりにも粗末すぎるのです。これは観ていて恥ずかしい。

 映画『タイタニック』では、パソコンで作ったタイタニック号沈没のシミュレーション映像と、劇中で本物のタイタニックが沈んで行く映像を共にCGで作っています。(後者には模型やセットも使われています。)PC上のシミュレーション映像は、劇中の沈没シーンよりかなりクオリティの低いCGにしてあるわけですが、『アンツ』と『VISITOR』のCGの差はそれ以上です。はっきり言って、『VISITOR』の映像はハリウッドより10年以上遅れています。今どきこのレベルのCGで感心する人は、誰もいないでしょう。CGで人物を動かすのは確かに難しい。ハリウッド製のアニメ映画でも、人物までCGで動かしているのはごく一部です。その困難に、あえて挑戦した意欲は買いますが、意欲だけで面白い作品は生まれず、そこには技術的な裏打ちが必要なことを、この作品は教えてくれます。

 この作品に比べると、「CGは背景のみ」と割り切った『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー/スーシン』の方がはるかに潔いし、面白いんだよね……。


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