出発

1998/10/22 メディアボックス試写室
'67年のベルリン映画祭グランプリ作品を日本で初めて正式公開。
今観ると、結構かったるい部分も多いけどね。by K. Hattori


 ジャン=ピエール・レオーが主演した、1967年のベルギー映画。同年のベルリン国際映画祭では、グランプリと国際批評家大賞に選ばれている。監督はポーランド出身のイェジー・スコリモフスキで、日本では'72年にフィルムセンターの「ベルギー映画の特集」で1度だけ公開されたという。個人的には、数年前に1ヶ月ほど滞在したブリュッセルの町並みが懐かしい映画です。

 自動車レースに出場するため、なにが何でもポルシェを手に入れようとする19歳の少年が、仕事中に出会った少女と恋に落ちる物語。勤めている美容院のオーナーから車を借りるつもりが、直前になってオーナーが旅行に出て車が使えなくなってしまった主人公マルク。レースは目前だし、今から車種の変更もきかない。途方に暮れたマルクは、自動車販売店から車を盗み出そうとするが、これは相棒の大反対で取りやめ。リース会社から車を借りようにも金がなく、仕方がないのでガールフレンドのミシェールの持ち物を売り払って金を作る。それで足りない分は、美容院を訪れる好色な女性客に体を売って作ろうという悲壮な決意。しかし金を手にリース会社に行ったところ、23歳未満には車を貸せないと断られてしまう。途方に暮れたマルクは、路上駐車の車を盗もうとするが、これも些細なことから未遂に終わる。

 映画の前半は、一緒にレースに出るつもりでいた主人公とた同僚が、ふたりで車を手に入れようと苦心惨憺する物語。同僚は途中でレース出場をあきらめるが、マルクはあきらめない。映画の後半は、レース前日から当日の朝にかけての短い時間の中で、マルクとミシェルがどうやって車を手に入れるかという物語になっている。前半でものすごく面白いのは、インド人のマハラジャを使って、自動車販売店から車をだまし取ろうとするエピソード。でも後半の方が面白いエピソードが山盛りで、自動車展示場でトランクに隠れたり、展示車がまっぷたつに割れる場面、マルクが女性客にフェラチオされて目をまん丸にする場面などは面白かった。

 マルクとミシェールの恋の進展については、観ていてイライラすることが多い。マルクは大言壮語するわりには不甲斐ないやつで、関係をリードして行くのはいつもミシェールです。僕はマルクの様子を観て、「いいかげん、手を握るなり、キスするなりしろよ」と思ってばかりいた。最後のホテルのシーンなんて、「彼女がベッドの片側あけて待ってるんだから、とっとと一緒に寝ろバカ!」と思ってしまったよ。結局このマルクという少年は、車オタクの童貞ボーイなのね。今じゃ考えられない設定。少なくとも彼のようなキャラクターが、現代の観客の共感を呼ぶとは思えない。中学生じゃあるまいし。逆に、ミシェールのキャラクターは現代でも通用するかな。男につくす、健気なとこもカワイイじゃん。

 映画の中で一番面白かったのは、古道具屋にミシェールの鏡を運ぶ最中それを割ってしまう場面と、古道具屋のセクハラおやじの大仰な台詞だったりする。

(原題:Le Depart)


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