レ・ミゼラブル

1998/10/20 SPE試写室
ビクトル・ユゴーの代表作をリーアム・ニーソン主演で映画化。
残念ながらミュージカルではありません。by K. Hattori


 ビクトル・ユゴーの長大な原作を、2時間13分というコンパクトなサイズにまとめ上げた文芸映画。主人公ジャン・バルジャンを演じているのは、『シンドラーのリスト』のリーアム・ニーソン。宿敵ジャベール警部を演ずるのは、『シャイン』のジェフリー・ラッシュ。薄幸の女ファンテーヌをユマ・サーマンが演じ、その娘コゼットをクレア・デーンズが演じている。原作を短く切りつめているため、人物なども大幅に省略。その分、「ジャン・バルジャン対ジャベール」という人物ドラマの骨格が、強く浮かび上がる構成だ。脚本は『フィアレス』『死と処女』のラファエル・イグレシアス。監督は『ペレ』『愛の風景』のビレ・アウグスト。

 数十年に渡る大河ドラマを、この上映時間でまとめるのはやはり難しい。幾層にも重なる物語の重厚さはなくなり、子供向けのダイジェスト版か「マンガで読む世界の名作」のような、駆け足の展開になってしまった。中でも、人間の俗悪さを一身にまとったような腹黒いテナルディエ夫妻のエピソードが、大幅にカットされてしまったのは残念。彼らは主人公ジャン・バルジャンと対照的な位置を占める、重要な人物なんですが……。

 映画のテーマは、キリスト教的な愛と寛容が、人々にどのような影響を与えて行くかというものでしょう。バルジャンが真人間に生まれ変われたのは、教会から食器を盗み出したのを、司教に許されたことがきっかけだった。司教は聖書にある『上着を奪い取る者には、下着をも拒んではならない。求める者には、だれにでも与えなさい。あなたの持ち物を奪う者から取り返そうとしてはならない(ルカ6:29)』という言葉を文字通り実行して、バルジャンの魂を悪から救い出すのです。バルジャンはこれ以降、司教の恩に報いようと必死の努力をして、財を築き、貧しい者に仕事を与え、飢えている者たちに施し、周囲から尊敬される人物になって行く。ひとつの「許し」が、ひとりの人間の人生を変えるのです。

 ところがジャベール警部は、何があっても他人を許すことができない人間です。「一度罪を犯した者は永久に罪人である」というのが、彼の人間観になっている。ジャベールの場合は少し極端ですが、人間には多かれ少なかれ、こうした不寛容さがあるものです。

 物語の最初から最後まで通して活躍する人物がバルジャンとジャベール以外にいないため、物語全体がつぎはぎだらけの印象になっています。ファンテーヌは途中で出てきて早々に退場。テナルディエ夫妻はワンシーンのみ登場。コゼットは後半にだけ登場し、恋人マリウスはほんのチョイ役です。これは原作通りなので、ある程度は仕方のないこと。これを解消するには、映画を前後編二部構成にして、後半の主人公をマリウスにするぐらいの大胆な脚色が必要かもしれません。後半では自分の生活を守ることばかり考えているバルジャンを脇に追いやり、社会を改革しようとするマリウスを真ん中に持ってきた方が、映画としては面白いものになったでしょう。

(原題:Les Miserables)


ホームページ
ホームページへ