キリング・タイム

1998/10/16 SPE試写室
イタリアから凄腕の女殺し屋がマフィア組織を壊滅させる。
スタイリッシュでかっちょいい映画。by K. Hattori


 インド生まれの映画監督バハラット・ナルルーリの、長編デビュー作。この監督の2作目『ダウンタイム』をつい先日観て「まずまず」という評価に終わった僕ですが、このデビュー作の方が断然面白いと思いました。物語は単純。「言葉の通じない女殺し屋」というアイデアだけで、1時間半の映画をぐいぐい引っ張って行く。下手くそな複線や、もったいぶった台詞を一切排し、物語はひたすらラストに向かって突き進む。単純な映画にみえて、じつはなかなか計算高い映画でもあります。

 マフィアのボスで殺人マニアのライリーに、潜入中の刑事が殺され、惨殺死体は同僚刑事ブライアントの家の玄関先にさらされる。ブライアントはライリーに復讐を誓い、イタリアから凄腕の女殺し屋を呼び寄せてライリー暗殺を依頼した。だが彼は暗殺の証拠を消すため、自分の息がかかったチンピラたちに、ライリー暗殺後の女殺し屋を始末するように命じる。だがその計算は、ライリー不在の事務所に殺し屋が押し入ったことで狂い始める。ライリーの部下を全員射殺した女は、ターゲットが5時過ぎの列車で戻ることを知ると、一度ホテルの部屋に戻る。暗殺失敗を知らないチンピラたちは、計画通りに彼女の始末に取りかかるが、彼女はチンピラの手に負える相手ではなかった……。

 この映画の一番のアイデアは、「英語が通じないイタリア人の女殺し屋」を登場させたこと。「女殺し屋」だけならリュック・ベッソン『ニキータ』や石井隆の『黒の天使 Vol.1』があるし、言葉が通じない外国人の殺し屋も、最近は中国系マフィアが世界各地で流行中です。この映画の面白さは、「弱そうで強い女殺し屋」「言葉が通じそうで通じない外国人」という要素を結びつけた勝利です。言葉が通じないことで、観客は殺し屋の生い立ちや背後関係から自由になれる。石井隆なら殺し屋の背景を綿密に描いてドロドロの情念の世界にしてしまうところですが、この映画はそれを一切排除。なぜ彼女は殺し屋になったのか、どこで訓練を受けたのか、彼女は殺人に良心の痛みを感じるか否か、といった疑問をすっ飛ばし、殺し屋のキャラクターを強引に押し通してしまう。これは言葉が通じないからこそ可能なことです。

 言葉が通じないと、観客はそこで考えることを放棄してしまう。映画の中の中国人殺し屋がやたらと強いことや、そもそも饒舌な殺し屋が登場しないことからも、「無口な殺し屋は強い」というのが映画の中の約束事であることがわかります。これは他のスリラー映画でも踏襲されていて、例えば『ターミネーター』のシュワルツェネッガーは極端に無口なのでものすごく強かったけど、『T2』になると口数が増えてT1000(こいつは無口)に苦戦します。そういえばゴルゴ13も無口だね。

 この映画はファンタスティック映画祭で公開された後、日本ではビデオ発売されるのみで、一般劇場公開はなし。う〜む、ちょっともったいないような気もするが……。気になる人はファンタで観てください。

(原題:Killing Time)


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