ダウンタイム

1998/10/12 TCC試写室
故障したエレベーターに閉じこめられた主人公たち……。
ドラマ部分の弱さが目立つ残念な作品。by K. Hattori


 エレベーターに閉じこめられた、元警官、若い女、4歳の少年、老人が、墜落寸前の密室から脱出しようとするアクション・スリラー映画。宣伝文句としては「イギリス版『ダイ・ハード』」をうたっているが、むしろこれは『スピード』のエレベーター場面に影響を受けたものだろう。監督のバハラット・ナルルーリは、インド出身のイギリス人映画監督。本作は彼のデビュー2作目にあたる。中盤のエレベーター場面はスリル満点だが、その前後にあるドラマ部分が月並みな点が残念。

 物語の発端は、1件の自殺未遂事件。住んでいる高層マンションから飛び降りようとしているシングルマザーのクリシーを、元警官のロブが説得して自殺を思いとどまらせる。これがふたりの出会い。ロブはクリシーのことが気になって、翌日プレゼントを持って彼女の部屋を訪ねる。彼から逃れるようにエレベーターに飛び込んだ彼女を追って、ふたりは一緒にエレベーターに乗り込む。ところがエレベーターの機械室では子供たちが機械をいたずらし、少年のひとりが部屋に火をつける。エレベーターは電気系統がショートして不規則な昇降運動を繰り返し、それが古くなったワイヤーに負担をかけて次々に切断。あわやエレベーターは墜落寸前に追い込まれる。

 話のアイデアは二番煎じながら、そんなにつまらない物ではないはずなのに、映画は完全につまらない。これは各登場人物のキャラクターが曖昧だったり、エピソードの出し順がチグハグだったりするからです。完全に脚本の構成をミスしたものでしょう。アクション・シーンはそこそこ見られるものの、それをつないで行くドラマ部分のレベルが低すぎる。そもそも主人公ロブに僕は感情移入できなかったし、クリシーを素敵な女性だとも思わなかった。最後にふたりが結ばれても「よかったね」とは思えず、「勝手にしてれば」って感じですからね。

 事件の原因になっているのは、廃墟寸前の高層マンションでギャング化する少年たち。ところがこの映画における少年たちは、ただエレベーターを落とすためだけに存在する、じつに都合のいい役回りなのです。少年たちがなぜ不良化しているのか、なぜ働こうとしないのか、親と子の断絶の深刻さなどをもう少し描いてくれると、彼らのキャラクターに深みが出て面白くなったと思う。こうした「あと一歩」の印象は、他の登場人物全員に対して言えること。エレベーターに一緒に閉じこめられた老人と家族の物語や、ロブと友人の刑事の関係、クリシーを頑なにさせる孤独さなどが描かれていれば、映画は今よりずっと深みのある作品になっていたでしょう。

 エレベーターでのアクションはまず及第点といったところですが、冒頭の自殺を制止する場面や、最後の病院のシーンが迫力不足。これは脚本より、監督の演出力不足でしょう。これらの場面は体を使ったアクションではなく、台詞の応酬で緊張感が高まって行く大事な場面。こうした場面がきちんと形になっていれば、この映画は今より5倍は面白くなったはずです。

(原題:DOWNTIME)


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