キラー・コンドーム

1998/10/12 TCC試写室
コンドームがペニスを食いちぎって逃げる事件を追うホモの刑事。
刑事ドラマのパロディとしてはよくできている。by K. Hattori


 ニューヨークを舞台にした、ハードボイルド・タッチの刑事ドラマ……なのですが、製作したのがドイツ、俳優もドイツ人で、台詞もドイツ語。一応いくつかの場面はニューヨークでロケしているようですが、他は全部スタジオで撮っているんでしょう。オープニングで、路面の下からカメラがチルトアップして、ニューヨークの喧噪をローアングルで捉えるカットや、警察署内のざわついた雰囲気など、画面から漂ってくるニオイがきちんとアメリカ映画風になっているのが偉い。ドイツ語だけど。

 物語の語り口や絵作りのタッチは見事にアメリカの刑事ドラマなのに、お話がハチャメチャなのがおかしい。タイトルでもわかるとおり、これはコンドームが人間を襲うという話です。場末の安ホテルに備え付けてあるコンドームを男が装着すると、突然コンドームに歯が生えて、男性の大事なところを食いちぎるのです。コンドームは食いちぎったペニスをかかえたまま、セカセカとどこかに逃げて行く。ビジュアル的には間抜けでおかしい。でも男性にとって、これ以上の恐怖はない。

 主人公はシチリア出身で、警察在勤20年のマカロニ刑事(「太陽にほえろ」みたいだな)。彼はじつはホモで、犯罪現場の安ホテルで出会った若く美しい男と、運命的な恋に落ちる。ところがそこに、以前一晩だけベッドを共にした男が来て焼き餅を焼いて……。このあたりの展開が、いかにも「ハードボイルド刑事ドラマ」なのです。主人公のモノローグが全編にかぶさり、くわえタバコでよれよれのトレンチコートを着たスタイルもアナクロ気味。事件の真相をいち早く見抜いた主人公が警察で孤立し、単独で事件捜査を続けるという展開も定番。主人公を巡る色模様が、前半ではドラマのアクセントになり、後半では主人公の恋人が事件に巻き込まれるという筋立ても、アクション・ミステリーの決まり事。

 そんなガチガチの定食コースでありながら、描かれている事件が「チンポを食いちぎるコンドーム」であり、主人公に言い寄ってくるのが「元警官で女装している大男」だったりするバカバカしさ。この映画の不思議なところは、こうしたバカバカしい描写を、いたって真面目に淡々と描いていること。あまりに真面目なので、笑っていいんだか悪いんだか迷ってしまうほど真面目です。内容的には明らかに「バカ映画」なんですが、演出は型どおりにきちんと決まっているし、底の抜けたハチャメチャさとも無縁なので、「バカだね!」と即座に笑うことができない。笑うにしては高級すぎるのです。

 全体的にはコメディというより、「極めて異色の刑事ドラマ」という雰囲気になっている。これは刑事ドラマのスタイルをコピーすることで忙しくなってしまい、ギャグの数が少なくなったからだと思う。刑事ドラマのパロディだけなら、主人公の性的指向や、人食いコンドームという話題だけで足りるでしょうが、1時間半を越える長編映画としては、もうひとつアイデアが欲しかった。完成度が高いだけに、やや残念に感じます。

(原題:Kondom des Grauens)


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