フェアリーテイル

1998/10/06 徳間ホール
1917年に起きたブラッドフォードの妖精事件を描いた作品。
実話を元にしたファンタジーです。by K. Hattori


 1917年夏。イギリスのブラッドフォードにあるコティングリー村で、ふたりの少女が父親のカメラを使って妖精の写真を撮影した。13歳と10歳の少女に、写真の合成やネガの修整といった技術があるとは思えないし、専門家が見てもトリックの痕跡は見つけられなかった。シャーロック・ホームズの作者として知られるコナン・ドイルは、この写真を本物だとする記事を雑誌に寄稿し、イギリス中が大騒ぎになった。この有名な実話を映画化したのが、この『フェアリーテイル』だ。

 原題である『FAIRY TALE』を辞書で引くと「おとぎ話」「作り話、嘘」という意味が載っている。この映画はこのタイトルの下に、「a true story(真実の物語)」と小さく添えているのがミソだ。少女たちが妖精に出会ったという話は、はたして本当なのか。写真は本物なのか、それともインチキなのか。じつは僕はこの映画に不満があるのだが、それは映画のタイトルで提示されたこれらの問いかけに対し、映画が早々に答を出してしまうことだ。妖精の姿を画面に出すのは映画の最後だけでいいのに、この映画はちょっと出しすぎです。これだと、観客は事件の真相をあらかじめ知った上で映画を観ることになってしまう。これは妖精の存在そのものをミステリーにして、少女たちの言葉が本当か嘘か、観客にも伏せて置いた方がよかったと思う。それによって、映画の最後に登場する妖精たちの効果が大きくなるだろう。「妖精はいるけど、写真はインチキ」という結論が先にあっては、観ていてもスリルがない。

 この映画の面白さは、単に少女たちの姿を描くだけでなく、事件に大きく関わってゆくことになるコナン・ドイルや、彼の親友でもあった脱出王ハリー・フーディーニを登場させていること。ドイルは妖精肯定派、フーディーニは妖精否定派なのだが、彼らはふたりとも少女たちにとても優しいのだ。フーディーニを演じているハーヴェイ・カイテルがじつによろしい。命がけの芸を見せる時の険しい目つきと、子供たちに注ぐ優しい眼差しが、カイテルの中で矛盾せずに同居しているのは最高です。

 事件の時代背景になっているのは、第一次世界大戦の悲惨な被害。少女のひとりフランシスが汽車の中で知り合った顔のない兵士。フランシスの父親も、戦場で行方不明になって戻ってこない。こうした暗い世相の中でこそ、フーディーニの脱出芸も喝采を浴び、少女たちの妖精物語が多くの人々に信じられたのかもしれない。

 当時の風景を再現した美術スタッフの力はすごい。ロケ地探しの苦労が資料に載っていましたが、この映画に登場する風景を見れば、誰でも「なるほど、これは妖精が出ても不思議ではない」と思うだろう。この映画の成功の半分は、このロケ撮影の美しさにあると思う。

 個人的には100点満点で80点ぐらいあげてもいいと思う映画だ。映画のラストには、思いがけない大物スターが1カットだけ特別出演するので、これもお見逃しなく。誰が登場するかは、映画を観てのお楽しみ。

(原題:FAIRY TALE / a true story)


ホームページ
ホームページへ