ブギーナイツ

1998/10/05 GAGA試写室
衣装や音楽などの風俗描写より、人間描写の確かさに感心。
2度観てもアラが見えない傑作ドラマ。by K. Hattori


 10月下旬公開の予定だったのだが、前番組の『ベル・エポック』が大コケしたため、急遽予定が半月も繰り上がってしまった。東京地区では、銀座と新宿が10月10日から、渋谷は『ベル・エポック』がないので予定通り10月31日からの公開になる。映画の出来がいいので、こうしたドタバタ状態が興行不振に結びつかないことを祈るばかりだ。僕はこの映画を今年の5月に同じ試写室で観ているのだが、そのときはガラガラだった試写室が今回は立ち見まで出そうな満席。(さすがに試写室で立ち見はないのだが、補助イスが隙間なく並べられていた。)業界内では「面白い!」という評判が行き渡っているようですが、はてさて一般のお客さんはどう思ってくれますかどうか……。

 2時間半の長尺映画でありながら少しもダレないのは、演出や芝居やファッションや音楽以前に、脚本のできが素晴らしいからです。物語のスタートは1977年。無名の高校生エディが、巨根のスーパースター、ダーク・ディグラーとしてポルノ映画館のスクリーンを席巻したのが'78年と'79年。'80年代に入ってからは、ポルノ映画業界が衰退に向かいますが、この映画ではその様子を'80年のニューイヤー・パーティーを舞台に象徴的に見せている。ビデオ業界からの声掛かりを格好よく拒絶したポルノ映画監督のジャック・ホーナーは、「仲間と新年を迎えたい」と言って部屋を出た直後、その仲間のひとりが起こした大事件に遭遇することになる。ポルノ映画界の'80年代は、ビデオの脅威と、血塗られたパーティーでスタートするのです。ポルノ映画の上昇期はここでおしまい。あとは急速に坂を転げ落ちてゆきます。

 考えてみれば、すごくバブリーな話なのです。主人公は最初の2年で大スターになって大儲け、次の2年ですべてを失ってしまう。この映画は'70年代末から'80年代にかけてのポルノ映画界を舞台にしていますが、たぶん'80年代の日本のバブル経済を背景にしても、同じような青春ドラマが作れそうな気がします。(望月六郎の『極道懺悔録』がそうか……。いや、あれは違う。あの映画には風俗が描けていない。)

 僕はこの映画で何度か泣いてしまうのです。それは例えば、部屋に貼ってあったブルース・リーのポスターを母親に破かれたエディが「なんでそんなことするの!」と涙ぐむシーンや、録音技師のスコティが買ったばかりの車の中で「バカだ、バカだ、俺は大バカだ!」と泣きべそをかくシーンとか、子供を取り上げられたアンバーが裁判所の外で泣きじゃくるシーンだったりする。この映画のすごさは、映画の表面を風俗描写でびっしり埋め尽くした上で、登場人物たちの心の内面にずばずば踏み込んでゆくところです。長回しのカットが効果的に使われていて、人間の腹の底から絞り出されるような生身の声を拾い上げてゆく。風俗描写だけが取り上げられることの多い映画ですが、この映画のすごいところは、むしろ人間ドラマとして見応えがある点でしょう。

(原題:BOOGIE NIGHTS)


ホームページ
ホームページへ