プリーチング

1998/09/30 TCC試写室
政治家に雇われた青年が、SMクラブをスパイするのだが……。
豪華なSMクラブのシーンが魅力的。by K. Hattori


 セックスの好みは人それぞれ。秘められた個人の性癖に法律が口をはさむ必要はないのですが、海外では今でも同性愛やSM趣味を取り締まる法律が生きている国があります。厳密に言うと、オーラルセックスや肛門性交も禁止という国が結構多いのです。(オーラルセックスが禁止だと、クリントンは困るだろうなぁ……。)イギリスもそんな性モラルに厳しい国のひとつ。彼の国では成人同士のSM行為を、法律で処罰することができるそうな。実際に処罰しないのは単なる「目こぼし」であって、性の自由が解禁されているわけではないようです。

 イギリスの性倫理が低下していることを嘆く保守党政治家ハーディングは、過激なショーが売りのSMクラブをつぶしたくて仕方がない。クラブ内部の実体は外部には漏れないため、摘発の口実がないのが悔しくて仕方がない。そこで彼は、秘書として事務所に出入りしている純朴な青年ピーターをスパイに仕立て、クラブの内部を調査させようとする。違法なSM行為があれば即座に警察が踏み込み、変態どもを根こそぎ逮捕しようという作戦だ。インターネットを使って、クラブの経営者であり、ショーのトップスターでもあるタニヤと接触を持ったピーターは、無事クラブへの潜入に成功。しかしピーターは美しいタニヤの奴隷としての立場に、少しずつ心地よさを感じるようになってゆく……。

 奇抜なボンデージ・ファッションに身を包んだダンサーたちが登場する、映画冒頭のショー場面から迫力満点。ステージの中心に舞い降りた女王タニヤの神々しいまでの美しさ。このシーンで観客がタニヤを「女王様!」と思えないとこの映画は失敗ですが、ここで登場する彼女の格好良さには誰もがしびれることでしょう。ピーターでなくても「女王様について行きます!」という気持ちになります。ショーの場面もそうですが、この映画ではクラブの中のシーンがすごく魅力的。きらびやかなドレスとけばけばしいメイクの男女が、半裸でウロついている毒々しいイメージと、保守的でお堅い政治家のオフィスとの対比。クラブの中だけを延々追いかけていても観客は飽きてしまうと思いますが、時々そこから抜け出して、日常に帰ってくるのがいいのです。

 潜入捜査官がいつの間にか潜入先の魅力に抗しきれなくなるという、犯罪ドラマのおきまりのパターンを踏襲したものの、潜入先がSMクラブだという面白さ。正体がばれそうになったピーターが、過激なSMプレイを実演せざるを得なくなるという展開も、潜入捜査官物のパロディみたいで面白すぎる。最後は法廷ドラマ風のところまであるという、サービス過剰な映画です。

 物語は単純で力強く、テーマも明快でわかりやすい。世間から変態扱いされている性倒錯者たち(ネガティブな表現だけど、他に表現のしようがない)の世界を描きながら、彼らを決して笑いものにはしないのがいい。この映画で笑いものにされているのは、彼らを排斥しようとする保守的な人たちなのです。面白い映画でした。

(原題:PREACHING TO THE PERVERTED)


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