ヴァンパイア
最期の聖戦

1998/09/18 日本ヘラルド映画試写室
ヴァンパイアとバチカンの傭兵たちの血みどろの戦争。
ジョン・カーペンター監督の最新作。by K. Hattori


 600年生き続けているという美しい吸血鬼の王と、家族を吸血鬼に殺され復讐に燃える凄腕ヴァンパイア・スレイヤー(始末人)の対決を描いた、ジョン・カーペンター監督の最新作。この映画で描かれたヴァンパイアと人間の戦いは、悪魔の化身と神の代理人たる人間という、オカルト・チックで古典的な対立項にはなっていない。ヴァンパイアも人間も、自分たちが生き延びるためには相手と戦うしかない。これは異なる種族同士が互いの生存をかけた、究極のサバイバル戦争なのだ。

 ヴァンパイア退治のシーンには、十字架もニンニクも十字架を溶かして作った銀の弾丸(これはもともと狼男対策)も登場しない。ヴァンパイアを殺すには3つの方法しかない。つまり彼らを日光に当てて焼き払うこと、白木の杭を心臓に打ち込むこと、眠っている隙に胴体と首を切り離してしまうことだ。当然、映画に描かれるヴァンパイア退治は、凄惨で血なまぐさい場面の連続になる。物陰に隠れるヴァンパイアにワイヤー付きのクロスボウを打ちこみ、ウィンチでワイヤーを巻き上げて無理やり外に引きずり出すシーンが何度か出てくるが、太陽の光に当たった瞬間、花火が火を吹くように爆発的に燃え始めるヴァンパイアの姿にはビックリする。

 映画としては、大ぶりのハードパンチャーみたいな作品です。打撃コースがあまりにみえみえなので、直撃弾を食らうことはまずないのだが、ブンブン唸りを上げて強力なパンチが目の前や鼻先をかすめていくので、冷や汗ぐらいは背中にツツーッとたれてくる。映画館から出てしまえば、余裕綽々で脚本や演出の欠点をあげつらうことも出来るけれど、観ている最中はにニヤニヤしながらも直撃をさけるための防戦で精一杯。観客によっては運悪く直撃を食らって、一生残る心の傷を負いかねない描写に満ちています。ヴァンパイア映画版の『プライベート・ライアン』とでも言いましょうか……。

 ジェームズ・ウッズがバチカンに雇われたヴァンパイア・スレイヤーズのリーダーを演じていますが、この映画で強い印象を残すのは、むしろヴァンパイアのリーダーを演じたトーマス・イアン・グリフィスでしょう。ヴァンパイアに襲われた娼婦を演じたシェリル・リーもよかったし、彼女を監禁・尋問しているうちに彼女を愛するようになるダニエル・ボールドウィンも印象的。彼らに比べると、ウッズ演ずるジャック・クロウという男には、いまいち魅力が少ないように感じられます。

 ローマ・カトリック教会が秘密裏にヴァンパイア退治をしているという設定はユニークですが、設定の細部はもう少し詰めたほうがよかったと思う。吸血鬼の概念はもともとキリスト教の内部にはない異教的なものだが、「ヴァンパイア=悪魔」という設定はやや強引すぎる。吸血鬼の起源は、もっと原始的なアニミズム信仰なんだよね。この映画ではそのあたりにあまり深入りせず、サラリと描いているのですが、その淡泊さがクライマックスの底の浅さにもつながってしまった。やや残念。

(原題:JOHN CARPENTER'S VAMPIRES)


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