キッスで殺せ

1998/08/17 日本ヘラルド映画試写室
1955年にロバート・アルドリッチが作った探偵映画の完全版。
途中で寝てしまったので評価は保留します。by K. Hattori


 『ヴェラクルス』や『特攻大作戦』のロバート・アルドリッチが、ミッキー・スピレインのマイク・ハマーものを原作に、1955年に製作・監督したフィルムノワール作品。今回上映されたのは、アルドリッチが個人的に所有していたというディレクターズ・カット版。公開当時のバージョンとはラストシーンが異なるという。最近はディレクターズ・カットが大流行だが、これはアンハッピーな結末で終るはずだった監督の意図を復元したものであることが多い。このため、多くの映画ファンは「ハリウッドはハッピーエンドしか許さない」と頭から思い込んでいる。例えば『未来世紀ブラジル』を巡って行なわれた監督と製作者との戦いを見れば、ロバート・アルトマン監督の『ザ・プレイヤー』に描かれている強引なハッピーエンディング指向が、冗談でも何でもないハリウッドの現実であることがわかるはずだ。

 しかし今回の『キッスで殺せ〈ディレクターズ・カット〉』は、そうしたハリウッドの「伝説」に真っ向から反対する材料を我々に付きつける。なんとこの映画は、最初の公開時には主人公とヒロインの死というアンハッピーな結末で映画が終わっていたのだが、今回公開の運びとなったディレクターズ・カットでは、主人公とヒロインが生き延びるというハッピーエンドが用意されているのだ。ディレクターズ・カット版の方が、12ショット余分な映像が含まれ、上映時間は80秒長いらしいのだが、なぜ最初の公開時に、この80秒をカットしてしまったのかは謎だ。監督も亡くなった今となっては、その意図を誰も読み取れないだろう。映画史の謎である。

 夜のハイウェイで何者かに追われる裸足の女を、私立探偵のハマーが車に乗せたところから映画が始まる。間もなくハマーと女は謎の男達に拉致され、女は拷問の末に殺されてしまった。ハマーは病院で意識を取り戻したが、その時はすべてが終った後。事件は病みから闇に葬られそうになるが、ハマーは女が最後に残した「私を忘れないで」という言葉に駆り立てられるように、事件の真相究明のために動き出す……。

 じつはこの辺まで観たところで、例によって強烈な睡魔に襲われ、映画の方がお留守になってしまいました。もっとも完全に寝てはいないので、映画の流れ自体は頭に残っているのですが、登場人物の多さと、数々の謎や人物同士の関係をほとんど台詞だけで描写して行くスタイルが、睡魔と戦いながら観る映画としてはつら過ぎた。アクションシーンでは目が覚めるのですが、主題である謎の探求になると、途端に眠たくなってしまう。これは探偵映画の宿命かな。ハリウッドが探偵映画をほとんど作らなくなり、最近はもっぱらミステリー・アクションに向かっている理由がよくわかるような気がする。

 謎の中心にあるのは、どうやら超小型の原子炉らしいのですが、ここから物語はSFになってしまう。この設定は、今の観客にも荒唐無稽過ぎます。この映画の製作当時は、誰も問題にしなかったんだろうか?

(原題:KISS ME DEADLY)


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