ネネットとボニ

1998/08/10 メディアボックス試写室
気ままな暮らしをしていた兄の元に、妊娠した妹が転がり込む。
パン屋の女房が色っぽくて素敵です。by K. Hattori


 こういう映画が作れるところが、フランス映画界のよいところでもあり、こういう映画が高く評価されてしまうのが、フランス映画界の不幸なのかもしれない。僕はこの映画を観ていても、最後までどこが面白いのかさっぱりわからなかった。主演のグレゴワール・コランは『ビフォア・ザ・レイン』や『天使が見た夢』でなじみのある俳優ですが、今回の役柄はひとつも魅力的だと思えなかった。共演のアリス・ウーリもそれは同じ。唯一面白かったのは、主人公の劣情を刺激するパン屋の女房ぐらいで、あとは全滅状態。ヴィンセント・ギャロがパン屋の亭主役で出演しているけど、これも食い足りない。でもこの映画は、出品されたロカルノ映画祭でグランプリを受賞し、主演のコランは最優秀男優賞を受賞している。パン屋の女房役のヴァレリア・ブルーニ=テデスキが、最優秀女優賞をもらったは納得もできるんだけど……。

 最近のフランス映画の傾向のひとつに、アクション映画やサスペンス映画などでアメリカ映画的な面白さをどんどん狙い、観客動員でハリウッド作品に負けない集客力を発揮しているという面がある。リュック・ベッソンのように実際にアメリカに渡って映画を作ろうとする人もいるし、フランス本国でいかにもフランス映画的な苦味や毒のある作品を作りつづけている人たちもいる。予算規模などの点で、フランス映画はハリウッド映画にかなわない点も多いんだけど、それをアイデアと創意工夫で乗り越えようとして、面白い映画が何本も作られている。そうした元気のよさでは、フランスの映画界は日本の何倍も活気がある。でもこの『ネネットとボニ』は、そうしたハリウッド指向(世界指向と言ってもいい)とは別の方を向いている映画です。

 離れて暮らしていた兄妹が同居し始める。妹のネネットは15歳で、どこの誰ともわからない男の子供を妊娠中。兄のボニは19歳で、昼間はピザ屋の仕事をし、夜は近所のパン屋の女房とセックスすることを夢想しながらオナニーにふける毎日。ふたりには父親がいるのですが、父とボニとは折り合いが悪い。いろいろあって、最後はネネットが無事赤ん坊を出産するまでの物語です。

 登場人物が抱えている事情や物語の背景を、映画の中で小出しにしてゆく。ネネットとボニの姿を映画の序盤で平行して描きながら、二人が血のつながった兄妹だとわかるのは、映画開始から数十分後。この後、主人公たちと父親の関係がおぼろげに見えてくるのに、さらに数十分。人物関係がわかっても、物語らしい物語はいつまでたっても始まらず、観ている側の欲求不満がたまるばかり。断片的なエピソードやイメージを未整理なまま工作させて行く手法は面白いけれど、映画はいつまでたっても散漫とした印象で、終盤に至っても一向に煮詰まってこない。これが好きな人はいいでしょうが、僕は駄目。

 舞台は南仏マルセイユです。『マルセイユの恋』のジェラール・メイランが主人公たちの叔父さん役で登場しますが、彼はマルセイユ出身なのね。なるほど。

(原題:NENETTE ET BONI)


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