ザ・グリード

1998/08/07 ヤクルトホール試写室
謎の海洋生物に豪華客船が襲われた。その正体は巨大なタコ?
どこをとってもB級な巨大モンスター映画。by K. Hattori


 ギリシャ神話に由来する名前を持った豪華客船が、各界の名士たちを乗せて処女公開に出発。最新設備を装備した海上の巨大ホテルでは、豪華なパーティーが開かれていた。だがその時、船は突然何かに衝突して、強い衝撃がパーティー開場を直撃。逃げ惑う客たちで、船の上は修羅場と化す。『タイタニック』や『ポセイドン・アドベンチャー』を彷彿とさせるシーンですが、今回犠牲になったのはアルゴノーティカ号。じつはアルゴノーティカ号は建造に巨額の費用がかかってしまい、船主は破産寸前。窮余の策として、傭兵を雇って航海中に船を沈没させ、保険金をせしめる計画が進んでいた。傭兵たちが船の金庫を襲い、保管してある貴重品類を奪うことも計画に折込み済み。しかし傭兵たちがアルゴノーティカ号にたどり着いたとき、どういうわけか船はもぬけのから。倉庫や金庫室に残ったわずかな乗員たちは、船が怪物に襲われ、他の乗員乗客たちは全員殺されたと証言する。はたして、アルゴノーティカ号に何が起きたのか?

 サスペンス映画としても、アクション映画としても、テンポが悪すぎるのが致命的欠点。わずか1時間半の映画なのに、なぜこんなに間延びした印象になってしまうのだろうか。僕なら映画をアルゴノーティカ号の船上パーティーシーンからはじめ、女泥棒トリリアンが監禁されるエピソードと、何者かによるシステム破壊と船の停止までを10分強で描き、ソナーに巨大な影が映ったところで場面転換させる。船が何かにぶつかったところまで描いてしまうと、観客はその後に起こる出来事を予期してしまい、傭兵たちが船についたときに状況が一変している不気味さが薄れてしまうと思う。密輸船の中の描写も、メカニックの男が積荷の魚雷に気づくシーンは不要。目的海域に近づいたところで傭兵たちが突然狂暴な正体を現し、船長以下に銃を付きつけ、魚雷が出てきたほうが効果的だっただろう。とにかくこの映画には、無駄が多すぎる。あと一歩で、ずっと面白くなるのに。

 CGで描かれる怪物も、僕はあまり面白いと思わなかった。これって『海底二万マイル』のイカと、『アナコンダ』の大蛇を合体させたようなものではないか。新しさもオリジナリティも、ぜんぜん感じないのです。特に日本人にとって、この怪物のスタイルは最初から「タコ」にしか見えない。多くの欧米人にとってイカやタコの類は「デビル・フィッシュ」でしょうけど、日本人があの怪物を見ても「お刺身が何人前とれるだろうか」程度の興味しかわかないと思う。船内の狭い通路を猛スピードで怪物が突進してくる描写も、トコロテンか流しソウメンの太いやつ程度にしか見えない。

 この映画は作品そのものより、東宝東和が作ったプレス資料やポスターのほうが笑えるぞ。「90分で3,000人が食われる」ってのは、確かに嘘じゃないんだけど……。「底なしの食欲。喰って、喰って、喰いまくれ!」「つまみ喰い」「丸かじり」「踊り喰い」「しゃぶり喰い」というのもすごい。宣伝マンのやりたい放題。笑えます。

(原題:DEEP RISING)


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