ポルノスター

1998/08/03 メディアボックス試写室
リトルモアMOVIES第3弾は渋谷を舞台にしたバイオレンス映画。
スローモーションの使い方がやたら格好いいぞ。by K. Hattori


 渋谷の街を舞台にした、異色のバイオレンス映画。渋谷の街にフラリと現れた関西弁の青年・荒野が、「ヤクザ? いらんなぁ……」と呟きながら、次々にヤクザを殺して行く。いつも手にしている安っぽいボストンバッグと、決して脱ぐことのないカーキ色のコート。死んだような目をして、人を殺すときも無表情。彼の正体は謎に包まれているが、「ヤクザ? いらんなぁ……」という態度だけは最後まで一貫している。荒野を演じているのは、『岸和田少年愚連隊・血煙り純情篇』に主演していた千原浩史。ヤクザ相手に少しもひるまず、うつろな目のままナイフを繰り出す青年を、ぼんやりと演じている。このぼんやりした感じが、わりといい。

 ヤクザの組長に荒野を処分することを命じられながら、人を殺す度胸がなくて、なんとなく彼を匿うようなかたちになるチンピラの上條。演じているのはデビュー作『JUNK FOOD』で見せた圧倒的存在感で、映画ファンの度肝を抜いた鬼丸。今回は最初から最後まで映画に出ずっぱりで、俳優としての真価を問われる作品だと思いますが、鬼丸はやはり、そんじょそこいらのタレント俳優が足元にも及ばないような芝居を見せてくれる。『JUNK FOOD』や『HeavenZ.』では、素材そのものの魅力で勝負していた鬼丸も、今回の映画ではちゃんと芝居をしている。チンピラたちのリーダー格でありながら、意外なことに心配性で、いざとなると仲間を見捨てて逃げてしまうという上條のキャラクターが、鬼丸の中できちんと消化されている。彼は俳優としても逸材であることがこれで証明されたと思うので、今後はメジャー系の映画に出て、ゴリゴリの青年ヤクザか何かを演じてほしい。

 監督・脚本の豊田利晃はこれが映画監督デビュー作のようですが、映画の中には時折はっとするような鮮烈な場面があって、この監督の才能を感じさせます。特にスローモーションの使い方が秀逸。通常のフィルムスピードから、同じカットの中でフィルム速度を上げてスローモーションに移行するシーンが何ヶ所かありますが、これがなかなか格好いい。空から無数のナイフが振ってきて、次々と道路に突き刺さる場面もすごかった。映画の中には他にもいろいろな映像的たくらみが用意されていますが、そのすべてが成功しているとは思えない。でもこうした試行錯誤の中から、自分の映像スタイルを作り出していってほしいと思います。

 暴力シーンは、多くの場面で水準を遥かにしのぐひらめきを見せつつ、一部で手抜きじゃないかと思わせる凡庸な場面もあったのが残念。例えば、杉本哲太が殺される場面は、もっと短くしたほうがよかった。何度も胸にナイフを付きたてるのですが、刺すたびに胸に入れた板に刃先が当たるボコボコした音が響いてしまう。実際に人間を刺せば、もっとすんなり刺さるはずです。最後に事務所に乗り込むシーンでは、枝豆や補聴器、盆栽などの小道具使いが面白いものの、全体にちょっと重くてスピード感に欠けたような気もする。あとひと工夫かな。


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