地獄門

1998/07/31 並木座
日本映画初のイーストマン・カラー作品。海外で各賞受賞。
長谷川一夫と京マチ子主演の王朝物。by K. Hattori


 昭和28年製作の大映作品。原作は菊池寛の「袈裟の良人」。監督・脚本は衣笠貞之助。主演は長谷川一夫と京マチ子。平家全盛時代の京都を舞台に、人妻に横恋慕した武士と、彼の誘惑を退け、あくまで夫に貞節をつくそうとした妻の確執を描くメロドラマ。日本初のイーストマン・カラー作品として製作され、カンヌ映画祭ではグランプリ、アメリカのアカデミー賞では最優秀外国語映画賞と衣装デザイン賞を受賞した。この3年前はベネチア映画祭で黒澤明の『羅生門』がグランプリを獲得している。まさに大映の黄金時代です。

 この映画の製作にあたっては、監督の衣笠貞之助、撮影の杉山公平、技師の塚越清治、照明関係の龍敬一郎の4人をアメリカに2ヶ月実地研修に送り、その後も撮影前の準備に3ヶ月をかけた。さらに撮影を2班体制にして、ロケ関係は森一生と宮川一夫が担当している。セットの場面とロケシーンで画面の雰囲気が違うのは、こうした事情によるものでしょう。なお当時の衣笠組の助監督は、後に大映で数々の傑作を撮る三隅研次。

 戦乱の中で出会った美女・袈裟(京マチ子)の姿が忘れられず、彼女を妻に貰い受けようとした盛遠(長谷川一夫)は、彼女が人妻だと知っても諦め切れない。彼は幾度か彼女に言いより、その都度はねのけられるが、恋の炎はますます掻き立てられるばかり。やがて盛遠は彼女の夫にライバル心を剥き出しにするようになるが、温厚な人格者である袈裟の夫(山形勲)は、盛遠を軽くいなしてしまう。やがて盛遠は袈裟に対し、自分と一緒になってくれなければ彼女の夫や親戚を殺すと脅す。彼女はそんな彼の言葉に、ついに頷くのだった……。

 男女の三角関係を描いた王朝物で、粗暴な男が美女に強引な求婚をするというと、これは『羅生門』と同じ展開。美女を演じているのも同じ京マチ子だし、タイトルも『羅生門』と『地獄門』だからよく似ている。でもヒロイン像は正反対。「おぼえておくといい ……女は、なにもかもわすれて、気狂いみたいになれる男のものなんだ!! ……女は、腰の太刀にかけて自分のものにするものだ!!」と叫ぶ『羅生門』のヒロインなら、腕ずくで女をわがものにしようとする盛遠に簡単に屈服したことでしょう。そこには弱肉強食という、原始的なルールだけが存在する。でも『地獄門』の袈裟は、温厚な夫を裏切ることなく、自らの命と引き換えに、この愛憎劇に幕を引いてしまう。女の中に眠っているふたつの素顔を、同じ京マチ子という女が演じている面白さです。

 でもこの映画は、今観るとちょっと退屈。1時間半ほどの映画なのに、最初の30分でもう時計が気になってしまった。映画館の椅子が硬くてお尻が痛くなってきたこともあるけど、最後までの展開が、何となく読めてしまったことも退屈の原因です。衣笠監督の端正な絵作りや、豪華な衣装とセットなどは、今でも目を見張るほど美しいと思いますが、それに驚いていられるのは最初の20分まででしょう。最後のオチもなんだかなぁ……。


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