キュリー夫妻
その愛と情熱

1998/07/24 東映第2試写室
ラジウムの発見者キュリー夫妻の姿を描いたドラマ。
イザベラ・ユペールのが素敵です。by K. Hattori


 ポロニウムとラジウムの発見で1903年にノーベル物理学賞を受賞した、ピエール・キュリーとマリー・キュリーの科学者夫婦を主人公にしたドラマ。といっても、これはありきたりな伝記映画や偉人伝ではない。これを「史実に忠実な映画だ」と考えるとひどい目に合うので、映画を観た後で「キュリー夫妻はね」などと知ったかぶりをしない方がいいと思う。映画に描かれているのは、大学の研究室で働く貧乏な天才科学者夫婦に世界的大発見をさせることで、上司である自分に勲章と栄誉が舞い込むことを願っている俗物校長の姿。映画の原題は『シュッツ氏の勲章』という意味だそうですが、この校長こそが悪名高きシュッツ氏というわけです。研究テーマとして頭から無理難題を押し付け、その一方で研究予算は削りに削る。不平を少しでも言おうものなら、「嫌なら出て行け。研究者などいくらでもいる」と脅しつける嫌な奴。でも演じているのがフィリップ・ノワレなので、このシミッタレ校長も不思議と憎めないチャーミングな人物に仕上がってます。彼にいじめられる偉大な研究者ピエール・キュリーを演じているのは、『ドライ・クリーニング』のシャルル・ベルリング。

 そんな劣悪な環境の研究室に、ポーランド人の女性研究者がやってくる。彼女の名はマリア・スクロドフスカ。やがてピエールと結婚してマリー・キュリーとなる女性です。演じているのはイザベル・ユペールで、マリー・キュリーを演じるにしては年齢的にどうかなとも思いますが、ちゃんと「田舎出の秀才少女」風に見えるんだから、役者というのはすごいよね。マリー・キュリーという人は、夫の死後、金属ラジウムの分離に成功してノーベル化学賞を受賞しています。娘のイレーヌも研究者に育て上げ、娘も夫と共にノーベル賞を取っている。第1次大戦中は自動車にX線装置を乗せて、イレーヌと共に戦場でレントゲン撮影のボランティアをしていたという人です。マリーは白血病で死ぬんだけど、その原因は第1次大戦中のX線被曝にあったとされています。(娘のイレーヌも、死因は急性白血病です。)彼女をよく知るフランス人にとって、マリーは単なる「女科学者」ではなく、偉大なる妻であり、偉大なる母なのでしょう。そうしたイメージを伝えるには、イザベル・ユペールぐらいの女優が演じないと説得力がないのかもしれません。

 この映画はキュリー夫妻に「偉大な科学者」として敬意を払いつつ、天才特有の奇矯さを併せ持つ変人としての面もたっぷり描いています。それが、一般の人から見ると、ちょっと間抜けでユーモラスにも見える。学会で彼らの研究内容について詰問されたシュッツ校長が、「私にも彼らのやってることがさっぱりわからない」と嘆くあたりは面白いし、天才と凡人の関係を端的に表しているように思う。全体にコメディタッチだし、カラリと明るくて説教臭くない。もともとは戯曲作品で、日本では黒柳徹子主演で上演されたことがあるそうです。黒柳さんと比べると……。イザベル・ユペールはお若い!

(原題:Les palmes de M.Schutz)


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