チャカ
LONELY HITMAN

1998/07/23 東映第2試写室
竹内力演ずるヒットマンが、若い看護婦と愛し合うようになる。
最近のヤクザ映画としては平均点クラス。by K. Hattori


 組織の中で殺し屋として生きてきた男が、病院で出会った若い見習い看護婦と恋に落ちる。やがて彼女は妊娠。母親の面影すら知らぬ男は、自らが父親となり、恋人が母親になる日を心待ちにするが、出産当日、組織の抗争の中で命を散らしてしまう。原作者である山之内幸夫が今から10数年前に出会ったヒットマンをモデルにして描いた小説を、森岡利行の脚本と、渡辺武の演出で描くヤクザ映画。「チャカ(=拳銃)」と呼ばれる孤高のヒットマンを演じるのは竹内力。ヒロインの看護婦に吉村美紀が扮している他、最近あちこちで顔を見掛ける木下ほうかが敵対する丸山組のチンピラ、その恋人を相生恵美、島の兄弟分である組長代行を菅田俊、丸山組組長を志賀勝が演じている。この手の映画としては、まずまず水準程度の作品なのではないだろうか。

 話の構成は、同じ山之内幸夫原案、森岡利行脚本で、望月六郎が監督した『鬼火』に似ている。殺し屋として名を馳せた男が、若い女との生活の中につかの間の安らぎを見出しながら、最後は殺し屋として死んで行く。『鬼火』の優れた点は、殺った殺られたというヤクザ社会の出来事を物語の背景に後退させ、心の傷を埋め合うように愛し合う主人公たちの姿を大きく前面に押し出したところだ。それに比べると、今回の映画の男女関係描写は弱すぎる。細かい部分に優れたエピソードも盛り込まれているのだが、そもそも竹内力と吉村美紀という組み合わせに、あまり魅力が感じられなかった。竹内力はハンサムすぎて、くつろいだ場面になるとヤクザには見えないのだが、そんな彼がひとたび銃を手に仕事に向かう時は、急に顔つきが険しくなって筋金入りのヤクザになる。このあたりは芝居としては上手い。ただ、もう少しメリハリのある演出が伴うと、もっと効果的だったと思う。主人公の持つふたつの顔を、どういう場面で使い分けさせるかで、この映画はもっと深くなった。

 映画の中で流れる時間は、1年と少しだと思う。入院中の主人公が退院させられ、看護婦と愛し合うようになり、すぐに妊娠し、出産までを描いているから、それで時間の流れがだいたいわかる。でもこうした「時間」を描くのに、彼女のお腹の大きさしか判断材料がないのは物足りない。途中に季節がわかる風景を、少しずつ挿入していってくれると、映画は色彩豊かなものになっただろうに。屋上の鉢植えをちょっといじるとか、人物の服装を変えてみるとか、飲み物や食べ物の中身とか、季節感を演出する方法はいくらでもあるんだけどな。

 ラストシーンはどしゃ降りの大雨になっているけれど、これにはどんな意味があるんだろう。撮影時にはピーカンだったらしく、地面には役者たちの影がくっきりと映り込んでいます。どうして曇るのを待たなかったのか。曇る気配がなければ、雨を止めた方が自然だと思う。最後には、主人公の絶命した姿をクレーンから撮ったカットでは、主人公の上にうっすらと小さな虹がかかっているのが見えます。ひょっとして、これが狙いかな。


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