激しい季節

1998/07/10 KSS試写室
禁じられた恋に身を焦がす男女が、周囲をどんどん不幸にする。
田辺誠一と高橋理奈が好演。演出は落第点。by K. Hattori


 『四月物語』『MIND GAME』『BLUES HARP』など、最近立て続けに映画に出演している田辺誠一の主演最新作。偶然の事故で知り合った女性と運命的な恋に落ち、すべてを投げ打っても、彼女との愛を守ろうとする男の物語です。ヒロインを演ずるのは、これが映画初出演(ホントか?)だという高橋理奈。田辺誠一は『MIND GAME』や『BLUES HARP』で線の細いホモチックな役を演じていたし、『四月物語』もチョイ役に近かったので、今回の骨っぽい役柄には新鮮味もあり、また、結構はまっていたのが驚きでした。彼女との愛を妨害しようとする、ありとあらゆる圧力に屈することなく、「僕は逃げない」と言い切る男ぶりに惚れ惚れします。相手役の高橋理奈も大熱演。ちょっと硬いところはありますが、今後も女優を続けてほしいと、観るものに今後を期待させます。

 ただし、こうした主演ふたりのガンバリぶりほどには、映画の出来がよくないのが残念。若い平凡なサラリーマンがヤクザの女房と恋に落ち、会社を捨て、婚約者を捨て、家族を捨て、命も投げ出す覚悟で彼女と愛し合う。この出会いを運命的なものと受け止め、全身全霊で彼の愛に応えようとするヒロイン。運命にもてあそばれながらも、状況に流されることなく、自分たちの気持ちを貫き通そうとするふたり……。ところが、この映画は主人公たちの「気持」を、観る者に強烈に印象づけることに失敗している。彼らの愛は口先だけで語られ、観客を納得させるだけのパンチがないのです。このため、彼らを引き裂こうとする周囲の妨害ばかりがクローズアップされ、彼らの愛の巻き添えを食って被害に遭う人々の不幸ばかりが目立ってしまう。これは、劇中に何度か出てくるラブシーンの演出が、どうしようもなく下手糞なことから生じる映画のネジレだと思う。

 主人公である英樹と京子の恋は、互いの欲得や打算を越えた純粋な愛です。それは理性的な判断力を蹴飛ばし、周囲の忠告に耳を貸さず、他人がどんなに不幸になろうが「自分たちさえ愛し合えればいい」というエゴイスティックな愛なのです。これは言葉では説明できない。相手と分かちがたく結びついたふたりの関係を観客に納得させるには、ラブシーンを通してそれを描くしかないのです。でもこの映画のラブシーンの、なんと気のいかないことか。なんで日本の映画のラブシーンは、こんなにパサパサしてるんでしょう。乾いた唇をベタベタと押し付け合い、ベッドの中で上になったり下になったりすれば、それで「愛し合っているふたり」という図が出来あがるわけではない。せめてキスする時に舌ぐらいからめてほしいし、相手の身体にキスする時も舌ぐらい出してほしい。これじゃふたりとも、お義理でセックスしている不感症の人みたいじゃないか。

 これって役者が下手なのか、それとも監督が演出を放棄しているのか……。高橋理奈はせっかく上半身ヌードで熱演しているのだから、胸ぐらい格好よく撮ってやればいいのにね。観ていて気の毒でしたよ。


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