がんばっていきまっしょい

1998/07/07 東映第1試写室
入学した高校で女子ボート部を作った主人公の奮戦記。
感動がジワリとくる今年1番の青春映画。by K. Hattori


 今年観た日本映画の中で、ベスト1はこれだ! 来年発表される平成10年度の日本映画ベストテンにも、必ず食い込んでくるであろう傑作。愛媛県松山市が主催した「第4回坊ちゃん文学賞」で、見事大賞を射止めた敷村良子の原作を、ピンク映画出身の磯村一路が脚色監督。松山の進学校に入学した主人公の女子高生が、女子ボート部を作り、仲間を集めて大会に出場するという青春スポーツ映画。ボートに対してまったく知識がなく、運動部の経験もなかった彼女たちが、少しずつボート競技のとりこになって行く様子がじつに瑞々しく描けています。上映時間2時間の映画ですが、途中からは「お願いだから、この映画が5時間でも10時間でも続いてほしい」と思わせる心地よさ。これは絶対にオススメです。

 内容的にはスポーツ映画なのですが、この映画にはスポーツ映画にありがちな、「主人公の人間的成長」や「家族や仲間たちとの葛藤と和解」「ライバルとの友情」「恋愛問題」などの要素がないか、きわめて希薄に描かれています。この辺りは、同じボート競技を描いた原田眞人監督の『栄光と狂気』と比較すると、その違いがじつによくわかる。この映画が描いているのは、16歳から17歳という、人生の中でのごくわずかな時間を、同じボートの中で過ごした少女たちの輝かしい青春の一瞬間。そこには欲得や打算も色恋もなく、ただ同じピッチでオールを漕ぐ者たちの一体感だけが存在する。コックスの「キャッチ、ロー、キャッチ、ロー」という掛け声に合わせ、オールにかじりつくように漕ぎまくる少女たちの顔は汗で光り、歯を食いしばっている表情はとても美しい。ハイスピード撮影がとても効果的です。

 最初は「秋の新人戦まで」という約束でチームに加わった少女たちが、試合で惨敗した悔しさに「このままじゃ辞められないよね」と意気投合してくれる嬉しさ。シーズンが終わり、地味な陸トレを繰り返したあげく、春になってボート小屋まで行くと、それまでびくともしなかった重たいボートが、自分たちの手で持ち上げられた驚き。最初はお付き合いでボートを漕いでいた少女たちが、選手としてどんどん成長して行く頼もしさ。中でも、自分ではオールを漕ぐことのないコックスの少女が、最後は金切り声を上げながら、選手と一緒に汗をかくようになるくだりは素晴らしかった。

 手のひらにすくい上げた水が、指の間からこぼれ落ちて行くように、彼女たちが輝いていた時間は流れ去ってしまう。この映画は、そんな青春の輝きを惜しむように、彼女たちの姿をフィルムに定着させる。ボート部がなくなり、ボート小屋が取り壊されても、青春の思い出は決して色褪せない。この映画を観た人の心の中に、彼女たちの姿は永久に刻み込まれることでしょう。

 オーディションで選ばれた5人の少女たちが全員魅力的。脇を固めるベテラン俳優たちの好サポートも、観ていて気持ちが良かった。繰り返しますが、この映画は今年観た邦画の中で、ナンバー1の傑作です。


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