ノーウェア

1998/06/30 ユニジャパン試写室
『ドゥーム・ジェネレーション』のグレッグ・アラキ監督最新作。
こんな紹介で、どれだけの人がわかるんだ? by K. Hattori


 アメリカ公開時に「地獄に行った『ビバリーヒルズ青春白書』」と評された、グレッグ・アラキ監督の最新作。18歳の青年ダークを主人公に、ハリウッド映画では絶対に描かれることはない、恋に悩むリアルな青春群像が描かれている。主人公ダークを演じるのは、アラキ監督の前作『ドゥーム・ジェネレーション』でも主役を演じたジェームス・デュヴァル。この人、『ID4』では爽やかな好青年を演じているのだから不思議な人だ。今回の役は主人公といっても一種の狂言回しで、実際に彼が物語を引っ張って行くのではなく、彼がすべての事件を目撃する立場に置かれている。

 ダーク本人は、恋人を自分ひとりで独占したいのに、彼女が複数の男女と関係を持つことを止められないという、気弱な男を演じている。恋人メルを演じているのは、『ザ・クラフト』のレイチェル・トゥルー。なかなかチャーミングな女優さんで、確かにこんな恋人に「あなたは一番好きだけど、他の人とのセックスも大事なのよ」なんて言われたら悩むだろうね。今の時代、女性をぶん殴って自分の言うことを聞かせるわけには行かないし、かといって、彼女の行動を黙認することも、別れることもできない。彼はひとりで悶々と苦しんで、自分なりの結論を出すしかないのです。恋人がいるとは言っても、これってすごく孤独かもしれないぞ。

 この映画には黒人と白人のカップルが何組も出てきますが、これは普通のハリウッド映画だと絶対タブーなんです。『ペリカン文書』でも『コレクター』でも、黒人のヒーローと白人のヒロインは、絶対に結びつくことがない。黄色人種の男と白人の女の組み合わせも難しいらしく、『リプレイスメント・キラー』のチョウ・ユンファはミラ・ソルヴィーノと恋仲にならない。でも実際には、黒人と白人のカップルなんてざらにいるわけです。『ノーウェア』では、そのあたり前な事実を、じつに簡単に描き出している。インディーズ映画は、こうした点がじつにおおらかですね。もっとも、これはハリウッドが少し異常なんだと思いますが……。

 この映画には、他にも普通のハリウッド映画なら絶対に描かないこと、それでいて現実の世界にはありふれた出来事をたくさん描きます。主人公は自分の恋人との情事や顔見知りの男女の姿を思い浮かべながらオナニーにふけり、拒食症の少女は映画スターにレイプされたあげくテレビの宗教番組を見ながら自殺し、麻薬の売人は缶詰で殴り殺され、パーティー会場に紛れ込んだ宇宙人が人間をさらって行く。ハリウッド映画が世の中の上澄みの中から人生の真実をすくい上げようとしているとすれば、この映画はその下にある汚泥の中から何がしかの真実を切り取ろうとしているように見える。

 グロテスクなシーンも多いのですが、この映画ではそうした醜悪さをユーモアの衣で包み、観客が生理的嫌悪感を持たないように工夫されている。小さな映画ですが、映画作りの手法自体は手慣れてます。

(原題:nowhere)


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