シティ・オブ・エンジェル

1998/06/29 ワーナー試写室
人間の女性に恋をした天使は、地上に落ちて人間になろうとする。
『ベルリン・天使の詩』のハリウッド版リメイク。by K. Hattori


 ヴィム・ヴェンダースの『ベルリン・天使の詩』をハリウッドでリメイクした、天使と人間の女性とのラブストーリー。プレスの資料を熟読しても「原作:ヴィム・ヴェンダース」とは一言も書いてませんが、映画のエンドクレジットにはでかでかとヴェンダースの名前が出てきます。日本でも日比谷シャンテ・シネで単館ロングランの記録を作った『ベルリン・天使の詩』ですが、僕自身はこの映画を特別すごい作品だとは思わなかった。ちょっと気取っているというか、もったいぶったキザなところがあって、この映画に感動する人はそんな仕掛にごまかされているのだろうと思っていた。これは数年前に、コーエン兄弟の『ファーゴ』を観たときの印象と似ているかもしれない。この時感じたヴェンダースに対する不信感は、その後『夢の涯てまでも』で決定的になるのですが、それまではなかなか「ヴェンダースなんて大したことないよ」とは言えなかったんだよね。最近は『エンド・オブ・バイオレンス』などもありますから、ヴェンダースの悪口もずいぶんと言いやすくなりました。

 『シティ・オブ・エンジェルス』は、原作である『ベルリン・天使の詩』にあるもったいぶったトーンをすべて抜き去り、アメリカ映画流のシンプルなプロットに作り替えた作品です。原作にあった「ベルリン」という都市に対するベタベタした思い入れは、舞台をロサンゼルスに移したことで、きれいさっぱりなくなりました。ロスを舞台にしたことで、物語は普遍的な「都市」の物語になっている。アメリカの大都会には歴史の重荷がなく、純粋に人間の営みの集積だけがあるからです。物語自体は『ベルリン・天使の詩』をなぞって行きますが、映画の主要なモチーフであったベルリンの町を抜き去った分、天使と人間のピュアな恋の物語をたっぷりと描いている。僕はこうした方法に「正しさ」を観じます。

 そもそもヴェンダースも格好つけずに、最初から同じように映画を作ればよかったんです。ちなみにプレスに載っていた、『シティ・オブ・エンジェルス』に対するヴェンダースのコメントは「予想は完全に外れた。わたしはこの映画を気に入ってしまった。見事な出来映えだ。映像、ストーリーともに圧巻。こんな傑作はいままで見たことがない。感動した」と、手放しの絶賛。

 ニコラス・ケイジが天使を演じ、メグ・ライアンが彼と恋に落ちる女医を演じています。画面が全編カラーだと言うのが『ベルリン・天使の詩』との大きな違いですが、人間になった天使が流れた血を見て「これが血か! これが赤か!」と叫ぶシーンがありますから、天使の視覚がモノクロだという設定自体は生きているのです。

 ラストシーンには賛否両論ありそうですが、僕は結構感動しました。ただし見せ方が下手で、途中から結末が予期できてしまうのが残念。ここまで見え見えに作るなら、最後にドンデン返しがあるのかと思ったんだけどな。ラストについてはかなり語れる要素があるのですが、ラストをばらす必要があるので、今回はここまでにします。

(原題:City of Angels)


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