獄門島
(総集篇)

1998/06/19 東京国立近代美術館フィルムセンター
瀬戸内海に浮かぶ小さな島で起こる、三姉妹連続殺人事件。
片岡千恵蔵主演の昭和24年度作品。by K. Hattori


 戦後の占領時代、時代劇を禁じられた片岡千恵蔵が、名探偵・金田一耕助に扮して活躍する推理映画。千恵蔵の金田一物は、昭和22年の『三本指の男(本陣殺人事件)』を皮切りに、『獄門島』『八ツ墓村』『悪魔が来りて笛を吹く』『犬神家の謎/悪魔は踊る(犬神家の一族)』『三ツ首塔』まで、10年に渡って全6本が製作されている。このシリーズの特徴は、スーツ姿でダンディな金田一耕助像。原作は髪がボサボサで着物に袴という風体なので、この差は大きい。なお、『獄門島』は「ごくもんとう」と読むのだとばかり思っていたら、映画の中では「ごくもんじま」と呼んでいた。というわけで、ぴあシネマクラブに「ごくもんとう」とあるのは間違いでしょうね。ちなみに昭和52年に東宝で製作された市川崑作品は「ごくもんとう」が正しいのだと思う。

 片岡千恵蔵の金田一耕助がスーツ姿なのは、千恵蔵の脱・時代劇色を強調したかったことと、古い因習にとらわれた封建日本を、戦後の合理性と近代性を体現したヒーローが処断するという構図を鮮明にするためでしょう。この映画の中では、犯罪を犯す側は全員が和服。島の外から来た金田一耕助、彼の助手である白木女史、相棒とも言える磯川警部は、全員がモダンな洋装となっている。『獄門島』では事件の解決後、片岡千恵蔵が「封建的な、なんと封建的な!」とつぶやく場面まであり、このシリーズのコンセプトは明快です。責められるのは犯罪そのものではなく、日本を覆っているドロドロとした因習。もっと言えば、個人の幸福を犠牲にして成り立っている家族主義を断罪しているのです。

 同じ原作は後に再映画化されているし、原作を読んだ人も多いと思う。復員船の中でひとりの兵士が死んだことがきっかけとなって、獄門島の旧家・鬼頭家の三姉妹が次々に殺されて行くというミステリーです。戦死の知らせを持ってくるのが金田一なので、事件の原因を作ったのが金田一自身だし、パリッとしたスーツ姿の彼がやたらと不遜に見えるという面もあるのですが、これは原作の筋立てと映画のコンセプトの問題があるので仕方がない。面白いのは、千恵蔵が金田一耕助と鬼頭家の老当主を二役で演じていることでしょうか。こうした変装ものは、千恵蔵映画の特徴ですね。戦前の『赤西蛎太』でも二役をやっていますし、遠山の金さんシリーズや、多羅尾伴内シリーズでも変装を見せている。当時のお客さんは、こうした千恵蔵を楽しみにしていたのでしょう。

 磯川警部役で大友柳太朗が登場しますが、これも千恵蔵の金田一に負けず劣らずのダンディぶり。後半は磯川と金田一の掛け合いで、謎解きがぐんぐん進んで行きます。それにしても、私立探偵の金田一がピストルをぶっ放す、現場検証の前に現場を動かす、証拠品を勝手に持ち去るなど、今では考えられないような強引な捜査ぶりには困惑します。事件が解決して犯人が死んでしまうからいいようなものの、これで裁判を起こしても、今なら絶対に犯人を有罪にはできないでしょうね。


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