アイ・ドール

1998/06/18 ぴあ試写室
アメリカの子供用玩具「バービー人形」についてのドキュメンタリー。
バービー人形こそアメリカの文化なのです。by K. Hattori


 1959年にアメリカのマテル社から発売された、女の子向けの着せ替え人形「バービー」についてのドキュメンタリー映画。映画といってもビデオ撮りで、上映時間は57分。バービー誕生の秘話や、バービーの成長と変遷の歴史なども語られていますが、むしろ「バービー世代」とも言うべき大人たちのバービーに対する思いを描くことが主眼。そこから、この人形が作り出したひとつの「アメリカ文化」が見えてくる仕掛だ。バービー本人はインタビューに答えてくれないし、マテル社の公式見解もほとんど入っていない映画ですが、バービーマニアやコレクター、バービーで遊んで育った女性たち、今現在バービーで遊んでいる子供、バービー博物館の館長、家庭の主婦、元モデル、フェミニスト、アーティスト、イベントに登場するミス・バービーなど、バービーを巡る様々な証言を取ることで、バービーそのものの姿を浮かび上がらせる。アメリカン・ドキュメンタリーのスタンダードとも言える手法で、バービーを描いたわけです。

 30年以上に渡って少女たちのアイドルでありつづけたバービーは、常にその時代の最先端ファッションに身を包み、少女たちの理想を具現化するシチュエーションの中に身を置いています。顔つきも時代に合わせてどんどん変化している。しかし、そのプロポーションは絶対に変わりません。バービー人形で遊んでいた少女たちは、バービーのプロポーションを理想化し、自分の体をそれに近づけようとする。無理なダイエット、過食症や拒食症、豊胸手術、鼻の整形などを、バービーと二重映しにする場面は面白い。こうした現象がバービーだけの責任だとは誰も思いませんが、映画を観ると、そこにバービーの影響がまったくないとは言い切れなくなってくる。

 バービーとお友達が作るバービー・ワールドとも言うべき世界の中に隠された、女性差別や人種差別、セックスの問題などをあぶりだして行くくだりも面白かった。黒人の人形が、「肌の色が濃すぎる」という理由で発売中止になってしまったことに、黒人の女性が憤慨しているシーンが印象に残ります。ボーイフレンドのケンの男性器をどう描くかという問題が、マテル社の会議でまじめに議論されていたというのも興味深い。日本の生産業者の手で、会議の結論が反故にされてしまったという結末にも笑っちゃいました。バービーの原形がドイツの男性向けセクシー人形で、もともとは娼婦だったという裏話にもびっくりした。リリーというその人形が大ヒットしていたことから、マテル社がそれを女の子向けにアレンジして発売したらしい。つまり、バービーの出自は「無断コピー商品」だったのです。

 この映画は、バービー人形について肯定的な結論も、否定的な結論も出さない。バービーを取り巻く人間たちの思い入れを丹念に拾い、そこにアメリカ生まれの隠された「文化」を描き出す。製作・脚本・監督のトゥラ・アセラニス自身、3歳の時からバービーを集めているというマニアだとか。なるほど、愛情に満ちた映画です。

(原題:I'Doll)


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