シリアル・ラヴァー

1998/06/14 パシフィコ横浜
(第6回フランス映画祭横浜'98)
恋人たちとの関係を整理しようと考えた女に訪れた悪夢の一夜。
ミシェル・ラロックがすべての男たちを破滅させる。by K. Hattori


 ミシェル・ラロック扮するクレールは、35歳の誕生日を前に、交際中の4人の男たちの中から人生の伴侶を選ぼうと決意する。そのための方法として、彼女は4人を一度に晩餐に招き、公平な比較検討作業に取り掛かろうとするのだが……。映画のタイトルが英語で、テーマ曲がプラターズの名曲「オンリー・ユー」、三流探偵小説や犯罪スリラー風のオープニング。1940年代から50年代の犯罪映画を強く意識した絵作りや演出。さらに、主人公がそうしたパルプ・フィクションの愛読者という設定。これは何か事件が起こらないほうが不思議というもので、最初から観客をワクワクさせてくれます。陰影を生かした画面作りやスタイリッシュなカメラワークは、ウォシャウスキー兄弟の『バウンド』を思い出させる。監督はこれがデビュー作となるジェームズ・ユット。クレールの妹アリス役で、『パパラッチ』でパトリック・ティムシットの愛人を演じたエリーズ・ティルロワが出演。『ベルニー!』のアルベール・デュポンテルが、主人公を追い詰める刑事役で出演しています。

 この映画は、次から次へと主人公の身に降り掛かる偶発的な事故や、「よりにもよってこんな時に」という間の悪さが笑いを生むコメディです。映画は大きくふたつのパートに別れていて、クレールと4人の恋人たちで演じられる密室劇風の前半と、事の成り行きに茫然とするクレールの部屋が乱知気パーティーの会場になる後半のテイストがまったく違うのが印象的。前半はシックなヒッチコック風のサスペンス、後半は『ペダル・デゥース』さながらのドタバタコメディ。このふたつの味わいを、ひとりの主人公とひとつの部屋の中に集約することで、物語がふたつに分裂することなくつながっています。

 タイトルは連続殺人犯(シリアル・キラー)のもじりになっていますが、恋多き主人公(シリアル・ラヴァー)が、心ならずも連続殺人を犯してしまうことから、映画の中では「シリアル・キラー」と「シリアル・ラヴァー」がイコールで結ばれてしまう。この語呂合わせのようなアイデアに血肉が通っているのは、登場する彼女の(不幸な)恋人たちや、妹、刑事たち、押し込み強盗などが、平板なキャラクターになっていないからです。パーティー参加者などの点景人物ですら、コスチュームや会話の内容に細心の注意が払われている。ユット監督は脚本やCFを手掛けていた前歴があるそうですから、デビュー作の製作にあたっては入念な準備をしたのでしょう。

 前日観た『変人たちの晩餐会』が基本的にはヒューマンな笑いだとすると、この映画の持つ笑いはもっとブラックなものです。登場人物の境遇に同情したり、感情移入して笑うというより、目の前で起こっている不可解で不条理な出来事に、笑うことでしか反応できないタイプの映画でしょう。前半の「そんな馬鹿な」というシーンの数々には目が点になりそうですが、これが笑って許せないと、その後はどんな場面でも笑えないでしょう。真面目な人には受け入れられない映画だと思います。

(原題:SERIAL LOVER)


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