酔夢夜景
(よいゆめやけい)

1998/06/09 シネカノン試写室
浅田次郎原作の松竹映画『ラブ・レター』の盗作だと思われる。
真似なのに下手なのが情けなさすぎる。by K. Hattori


 主人公はいつまでも正業に就けないまま、出張マッサージ(内容はホテトル)の運転手で小銭を稼ぎ、アルコールに溺れ、下手な博奕に手を出しては借金をこさえているハンパな男。そんな彼のもとに、ある朝突然刑事が現れ、「奥さんが刺されて重態です」と告げる。じつは彼は2年ほど前、出稼ぎ中国人との偽装結婚して、金を受け取ったことがあるのだ。刺されたというのは、戸籍上は彼の妻になっている、中国人女性のことだ。やがて彼女は病院で死に、彼のもとには彼女の遺品として1冊の日記帳が残される。そこには、日本でのつらい生活ぶりと、数回しか会ったことのない「夫」への愛の言葉が書き連ねてあった。主人公はそれを読みながら、とめどもなく涙があふれてくるのだった……。

 この話って、まるっきり浅田次郎の「ラブ・レター」なんですが、原作はクレジットされてません。これは盗作なんでしょうか。それともパクリというやつでしょうか。あるいは、たまたま信じられないような偶然が重なって、話がすごく似てしまったのか。あるいは、浅田次郎の原作を映画化したかったんだけど、映画化権は松竹が握っていたのでそれができず、原作者の浅田次郎に断った上で「ラブ・レター」を映画化したものなのかな。原作はベストセラーですから、「偶然似てしまった」という言い訳は通じない。これは何らかの説明が必要でしょう。脚本は今岡信治と周智安。監督は片岡修二。ちなみに僕は、松竹版の『ラブ・レター』を観てひどい映画だと思いましたが、この映画を観ると、さすがに松竹版の方が面白いと思った。駄目な映画を観ると、別の映画の美点がよく見えてきます。

 そもそも、このタイトルがよくわからない。なぜ「酔夢」を「よいゆめ」と読むんでしょう。これは「すいむ」と読むのが正しくて、辞書にもちゃんと載ってます。意味は「酒に酔い、眠って見る夢」あるいは「満足してのんきに構えている状態」だそうです。これが映画とどう関係あるのか、さっぱりわかりませんが、もっとわからないのは、「酔夢=よいゆめ」なのに、「夜景=やけい」というゴロの悪さ。これじゃ湯桶読みの類だよ。意味もまったく通ってない。僕は最初このタイトルだけを見て、香港映画かと思いました。

 どうしても松竹の『ラブ・レター』と比べてしまうんですが、主人公と妻が2度顔を合わせるとか、オモチャの指輪のエピソードまで似ているのはヘンですね。これはひょっとしたら、松竹版の脚本が、初期段階で外部に流出したのかもしれない。どう考えてもおかしいよ。考えれば考えるほど、「盗作に違いない」という確信が揺るがなくなるなぁ……。

 なお、主人公がアル中という設定についてですが、きっかけはともかくとして、一度アル中になってしまうとそれは「精神病」ですから自力で治すのは困難です。たぶん主人公は、程なくしてアルコールに手を出し、もとの生活に再転落することでしょう。


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