ハーフ・ア・チャンス

1998/06/05 有楽町朝日ホール
アラン・ドロンとジャン=ポール・ベルモンドが28年ぶりに共演!
監督はパトリス・ルコント。こりゃ楽しい。by K. Hattori


 つい先日引退宣言して話題になったアラン・ドロンが、本当に引退すると、この作品が彼の「遺作」ということになってしまう……。というわけで、これが現時点でのアラン・ドロンの最新作です。共演はジャン=ポール・ベルモンドとヴァネッサ・パラディ。監督はパトリス・ルコント。ドロンとベルモンドは『ボルサリーノ』以来28年ぶりの共演だそうです。なんでも『ボルサリーノ』の封切時に、ポスターの名前の序列が原因でふたりは仲違いしてしまったのだとか……。でもまぁ、それから28年もたつと、こうやってまた笑って共演できる。ふたりとも「元・大スター」の貫禄だよね。

 物語の発端は、今から20年前にさかのぼる。美しいひとりの女がふたりの男と同時に恋に落ち、やがて女の子が産まれた。父親はふたりのうちのどちらかわからない。女は子供を連れて男たちのもとを去る。男たちには面識がないし、子供のことも知らない。彼らは彼女の面影を胸に抱いたまま、20年の時が流れる……。そして20年後、生まれた赤ん坊は凄腕の自動車泥棒になっている。逮捕されて服役中に母親が死亡。母親の遺品テープから父親のことを知らされた彼女は、父親候補の男たちに会ってみようと考える。

 話のアイデアは、ロビン・ウィリアムズとビリー・クリスタルが父親候補の男たちを演じた『ファーザーズ・デイ』と同じなんです。でも、中身はこの『ハーフ・ア・チャンス』の方が面白い。何より素晴らしいのは、ドロンとベルモンドが相手だとなると、パラディの母親がだらしない女に思えないこと。こんな男たちが側にいたら、誰だってふたり同時に愛してしまうに決まってる。ふたりとも、それを可能だと思わせる男たちだもんね。それに、突然現れた二十歳の娘を厄介者扱いせず、大人たちがふたりして彼女を奪い合うという筋立ても、ドロンとベルモンドがやると白々しくないのです。

 この映画最大の見どころは、ドロンとベルモンドの当意即妙な台詞のやりとりですが、ポイントはやはり、間に若いパラディがいるということでしょう。色恋抜きで若い女を守ろうとするふたりの姿がいいのです。これで色恋が混じると、ウォルター・マッソーとジャック・レモンの『ラブリー・オールド・メン』になっちゃう。台詞は随所で主演ふたりの今までのキャリアを踏まえたものになっており、試写会場でもクスクス笑いが起きていた。ふたりがマシンガンとモーゼルを構え、「なんだか懐かしいな」とつぶやくと『ボルサリーノ』のテーマ曲(だと思う)が流れ出す場面などは最高です。ベルモンドがわずかに年長であることをドロンがからかう台詞や、ベルモンドのアクションスターぶりを同じくドロンがからかう場面もありますが、こうした台詞のやりとりが、大スター同士のエールの交換のように見えるのがいい。

 それぞれのキャラクターがじつにチャーミングなので、同じキャラクターでもう1本続編を作ってもらいたいぐらい。今度はニューヨーク編でどうでしょうね……。

(原題:Une chance sur deux)


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