ジューンブライド
6月19日の花嫁

1998/06/04 松竹第1試写室
結婚式の日取り以外の記憶を無くした女が過去を探すミステリー。
脚本がうまい。演出は弱い。でも最後は泣けるby K. Hattori


 「池野千尋」という名前と、「6月19日に結婚する」という記憶以外の一切を失ってしまった主人公が、自分の過去を探すミステリー。結婚の日まで、あと1週間のうちに、彼女は記憶を取り戻すことが出来るのだろうか。「若い女性の自分探し」という普遍的なテーマを、「記憶喪失」というアイデアで目に見える探し物にしてしまったアイデアと、結婚の日まで1週間しかないというタイムリミットのサスペンス、さらに、何者かに彼女が命を狙われるというスリルがある。ひとりの女性のサクセスストーリーであり、恋愛ドラマとしても一級品。『南京の基督』や『kitchen/キッチン』など、最近は香港映画への出演が続いていた富田靖子が、久しぶりに主演する日本映画だ。主人公・千尋を助ける青年役に椎名桔平。監督・脚本は大森一樹。

 製作にフジテレビがかんでいるせいか、配役が妙にニギヤカなのが気になりました。最悪なのは南野陽子で、彼女は悪女にも見えなければ、けなげで哀れな女にも見えない。彼女の弱さと中途半端さで、終盤のクライマックスは気勢がそがれている。他にもテレビで見知っている顔触れがゲスト的に出演しますが、映画黄金時代の顔見世映画じゃあるまいし、こうしたニギヤカシは映画の流れを分断してしまうだけなんだけどなぁ……。同じニギヤカシでも、映画冒頭の斉藤由貴と風間トオルはいいんです。劇中で舞台劇を演じる場面で、物語に直接はからんできませんからね。逆に僕は、久しぶりに斉藤由貴の顔が見られて、なんとなく嬉しかったぐらいです。

 ミステリー映画なので内容について詳細に論じるのは避けますが、この映画の脚本はすごくいいです。ハッピーエンディングが用意されているのは最初からわかりきっているけれど、オープニングとエンディングがきれいに対称形になっているのが鮮やかだし、台詞も効果的です。僕はこのラストシーンで、思わずホロリときてしまった。ミステリー映画としても、随所に構成上のトリックが仕掛けられていて、すべての謎が解けたときは「なるほどそうか!」とすんなり腑に落ちる仕掛けになっている。最近は謎解きを物語推進の方便に使っている粗雑な映画が多いだけに、こうしてきっちりと謎に落とし前を付けてくれる映画の存在は頼もしい。

 もちろんこの映画に、大小の欠点や傷がないわけではない。例えば、富田靖子の悪女演技は似合ってもいないし、さまにもなっていない。最後に明らかにされる記憶喪失の原因も、観客すべてを納得させるだけのものではないでしょう。こうした感情的に切羽詰まった場面を描くにしては、大森監督の演出には粘りというものがないのです。話の辻褄だけは合っていますが、それが観客の感情を盛り上げて、否応無しに感動をさせられてしまうほどの力強さが不足しているのです。(こうした点では、辻褄なんて合わなくても無理矢理感動させてしまう、アルフォンス・キュアロン監督の『大いなる遺産』が素晴らしい。)まぁこれは、監督の持ち味なのかな……。


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