TOKYO EYES

1998/06/01 TCC試写室
吉川ひなのと武田真治主演の映画だけど監督はフランス人。
これは「外国映画」なのかな……? by K. Hattori


 吉川ひなのと武田真治主演で、舞台は東京。でもこれは、ジャン=ピエール・リモザンというフランスの映画監督が作った、半分外国製の映画なのだ。製作はユーロスペースとルーメン・フィルムで、日本配給はユーロスペース。配役がちょっと豪華です。例えば、杉本哲太、水島かおり、大杉漣、油井昌由樹、モロ師岡、光石研、そしてビートたけし。僕はすごく面白い映画だと思ったので、これが外国人監督の作品だという点がちょっと悔しいほどでした。なんでこれを日本人が撮れないんだよ。吉川ひなのは『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』や『デボラがライバル』より何倍も素敵だし、武田真治も独特の中性的魅力を振り撒いて好演してます。ふたりのシーンは、特に肉体的接触を強調する演出にはなっていないのに、ものすごくエロチックに見えます。

 若い男が通行人に拳銃で威嚇射撃する事件が連続して起こり、東京はその話題で騒然となります。度の強いメガネをかけた犯人は、マスコミや警察から「薮睨みの男」と名付けられますが、その手がかりはゼロ。ところが美容室でアルバイトをしているヒナノが、電車の中で偶然犯人を見つけるのです。彼女は彼に興味を持ち、後を付けて住所を突き止めます。ヒナノの兄は薮睨みの男を追跡中の刑事ですが、彼女は自分の調査結果を兄には教えない。ヒナノは薮睨みの男と声を交わし、彼の部屋を訪ねます。彼は「K」と名乗り、ふたりは急速に接近して行く。ヒナノはKが犯人であることを知っていますが、彼を警察に突き出したりせず、何とか彼に拳銃を使ったイタズラを止めてほしいと願うようになる。ふたりは恋に落ちたのです……。

 吉川ひなのがすごくイイ。僕は彼女の妙に甘ったれた感じの声が気になっていたのですが、この映画ではそれが主人公ヒナノのキャラクターを引き立て、抜群の個性になっています。『誘惑のアフロディーテ』のミラ・ソルヴィーノが、わざわざ甘ったれた声を作ってましたが、吉川ひなのは「作り物」でない甘ったれた声で、観客の脳髄をトロトロにとかしてしまう。不思議チャン系の俳優だった武田真治も、今回は映画の中で「不思議チャン」を演じているから違和感がまったくない。このふたりが並んで歩くと、それだけで画面がポエットな感じになります。風景がきらきらと輝いてくる。ふたりがセックスをするシーンはありませんが、電車の中でヒナノの目の中に入ったゴミを、Kが舌の先を使ってとるシーンは、セックス以上にすごくエロチック。

 東京中をロケーション撮影して、じつにフォトジェニックな風景を切り取っています。実際の位置関係などを考えると、ここに描かれている東京が、実際には存在しない「架空の町」であることは明らかです。ここにあるのは、映画の中にだけ存在するイメージとしての「東京」。東京という使い古された舞台を、こんなにもチャーミングに撮れる意外さに驚きます。素敵な映画なので、たくさんの人に観てもらいたいですね。

(原題:TOKYO EYES)


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