ウィッシュマスター

1998/05/13 徳間ホール
現代に甦ったアラブの悪霊と、聡明なヒロインの一騎打ち。
特殊メイクのアイデアにうなる。by K. Hattori


 『スクリーム』のウェス・クレイブンが製作総指揮した、かなり正統派のホラー映画。中世ペルシャの宮殿を恐怖に陥れたアラブの悪霊が、現代のアメリカに復活して地獄の到来を企てる。「ジン」という悪霊はディズニー映画『アラジン』に登場する「ジニー」のモデルともなった精霊だが、アラブ圏ではキリスト教における「サタン」と同じようにポピュラーな存在。ジンにはよいジンと悪いジンがいるのだが、この映画に登場するのは最悪のジン。普段は宝石の中に閉じ込められているが、人間がそれに息を吹きかけてこすると(このあたりは「アラジンと魔法のランプ」と同じ)、中から飛び出してきて、復活させた人の願い事を3つだけかなえてくれる。これが『ウィッシュマスター』(願い事の神)という名前の由来なのだが、3つめの願いがかなった瞬間、地獄への扉が開かれて、人間の世界は悪魔に乗っ取られると言われているそうな……。

 異国の神が現代に甦るという筋立ては、古代バビロニアの悪霊がアメリカの一少女に乗り移るという『エクソシスト』でも取り上げられていたテーマ。キリスト教は発達過程で、数多くの異教の神々を自らの信仰体系に取り込みましたが(クリスマス、バレンタイン、サンタクロースなどもその一例です)、こうした選抜からもれてしまったマイナーな神様もいる。アラブ社会で信じられているジンも、そんな神様のひとつです。

 監督のロバート・カーツマンは特殊メイクスタッフ出身で、この映画でも自分で特殊メイクを担当している。映画の冒頭にあるペルシャの宮殿での阿鼻叫喚は、特殊メイクのオンパレードで、観客を引き付けるツカミとしてもばっちりです。特殊メイクも今や技術としては成熟しているので、「こんなことができます」では誰も驚かない。むしろここで強調されているのは、「僕たち、こんなこと考えちゃいました!」という邪気のないイマジネーションの洪水です。人間が真っ二つに割れると中から骸骨が躍り出て、周囲の人間を襲うなんて、面白すぎるぞ。他にも、人間が次々変形して動物に変身したり、異形のものに憑依されて行くくだりは圧巻。永井豪の「デビルマン」に、デーモンが次々人間に乗り移って行く場面がありますが、ちょうどあれを実写で描いた感じです。この技術とお金があれば、「デビルマン」の実写映画化も夢ではないということですね。

 キリスト教世界では、神様と人間とは「契約」を結んだ関係です。同じことが、悪魔との間でも成立するというのが面白い。悪魔が「3つの願いをかなえてやる」と言った以上、その願い事は必ず成就する。ですから悪魔をやっつける際も、その願い事をいかに有効に使うかが勝負の分かれ目になるのです。「ジャックと豆の木」の悪魔はそら豆に、「長靴をはいた猫」の悪魔はネズミに変身して身を滅ぼしました。この映画ではビルの警備員に「俺の願いはお前がここから立ち去ることだ」と言われた悪魔が、すごすごと帰る場面があって笑えます。

(原題:WISHMASTER)


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