Uターン

1998/05/13 松竹第1試写室
オリバー・ストーンの最新作はタランティーノ映画の匂いがする。
主演はショーン・ペンだけど脇役が超豪華。by K. Hattori


 車の故障で迷い込んだ町の中で、次々起こる事件のせいで1万数千ドルの金をすべて失い、小銭すら持たない無一文になってしまった不幸な男の物語。オリバー・ストーン監督の最新作だが、珍しく政治色のない映画になっている。そのかわり、暴力場面はたっぷり。人間のどす黒い欲望が渦を巻き、不条理な暴力、理不尽な裏切り、理解不能な事件との遭遇によって、男の運命が時々刻々と変化して行く様子を淀みなく語るテクニックは天下一品。僕はオリバー・ストーンと伊丹十三に同じような「下品さ」を感じるのですが、ストーン監督は卓抜したテクニシャンなんですね。ストーン監督は、観客が「もっと観たい」と思うところを思い切り見せてくれるし、「もう観たくない」と思うところも、思いっきり見せてしまう。このしつこさが、彼のスタイルかな。

 主演は『ゲーム』や『シーズ・ソー・ラブリー』での好演が印象に残るショーン・ペン、ヒロインは『ブラッド・アンド・ワイン』『アナコンダ』のジェニファー・ロペス、ヒロインの夫に扮したのは『ジェファソン・イン・パリ』でアメリカ大統領まで演じてしまったニック・ノルティ。他にも『スリング・ブレイド』のビリー・ボブ・ソーントン、『ロミオ+ジュリエット』『レインメーカー』のクレア・デーンズ、『誘う女』『秘密の絆』のホアキン・フェニックスなどが登場し、フェニックスの恋人リブ・タイラーがゲスト出演している。また、『アナコンダ』でロペスと、『レインメーカー』でデーンズと共演したジョン・ヴォイトが、意味深な言葉を吐く盲目の男役で出演している。

 内容がバイオレンス系だし、出演者が超豪華なので、この映画にはちょっとタランティーノ風の匂いがします。タランティーノの『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』と比べるとだいぶ違うけど、『ジャッキー・ブラウン』あたりと並べると、雰囲気がかなり似てるような気がするんです。両方とも、'70年代指向なんだよね。テレビ東京で、平日の昼間に放送しているような映画に近いテイスト。もちろん料理の仕方は現代風になっているけれど、作品のルーツは『ジャッキー・ブラウン』も『Uターン』も同じような映画体験にあるように思えるのです。気のせいかなぁ……。

 『ジャッキー・ブラウン』とこの映画の共通点は、役者の使い方にもある。『ジャッキー・ブラウン』におけるブリジット・フォンダの使い方と、『Uターン』におけるクレア・デーンズの使い方。あるいは、『ジャッキー・ブラウン』におけるデ・ニーロと、『Uターン』におけるニック・ノルティ。無茶なキャスティングを、演出の力とディテールで、ごりごり押し切ってしまう強引さが、ふたりの共通点かもしれない。残酷で皮肉の利いたブラックユーモアも、ふたりに共通する。考えてみれば、そもそも彼らは『ナチュラル・ボーン・キラーズ』という共同作業の実績があるんだよね。だから、互いの趣味が似ているのはある種の必然かな……。

(原題:U-TURN)


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