BLUE FAKE

1998/04/27 シネカノン試写室
いつも孤独を心の中に飼っている女探偵たち……。
有森也美もすっかり年取ったなぁ。by K. Hattori



 昨年公開された『ROPPONGI FAKE/六本木フェイク・傷だらけの天使たち』の姉妹編というか、配役を変えた続編というか……。主人公である宮園綾香と相沢エチカのキャラクターや周辺人物の設定はそのままに、主演を長田江身子と矢部美穂のコンビから、有森也美と椋木美羽に入れ替えたもの。脚本・監督は前作と同じ出馬康成。じつは僕、前作を観逃しているので心配していたのですが、独立した1本の作品として十分に理解できました。

 ラジオ番組で女性リスナーからの悩み相談に答えている人気パーソナリティーの郷田から、鏑木探偵事務所に人探しの依頼が舞い込む。かつて郷田に相談の電話をし、その後何度か直接面識のある女性から、最近嫌がらせの電話を受けているというのだ。依頼内容というのは、その女性の現在の居所を突き止めること。カウンセラーの資格を持つ郷田は、彼女と直接会って力になってやりたいのだと言う。調査を開始した綾香だったが、あと一歩というところで、調査対象の女性は事故死してしまう。この事故に不信なものを感じた綾香と鏑木探偵事務所の面々は、独自に郷田周辺の捜査をはじめるのだった。

 物語自体はそこそこ面白いものだと思うのですが、脚本段階で既にポイントが絞りきれずにいます。物語は綾香とエチカのコンビが解散したところから始まりますが、このふたりが再びコンビになるまでの流れがばらばら。ここは主役ふたりの仲たがいの原因と、仲たがい後に感じる寂しい気持ちなどをたっぷりと描き、その上でコンビ復活への必然性を作っておいてほしかった。綾香の心が郷田に惹かれて行く描写にも、説得力がほとんどないように思える。彼女ははじめ、郷田の独り善がりなセラピストぶりに辟易していたのではないのか? それがどこから、彼に対する淡い恋心を抱くに至ったのだろう。恋の誕生を描くにしては、エピソードが不足しています。ミステリー作品としては、郷田の正体が不明確なのが致命的。彼は本当に無実なのか。彼が妹を使って、邪魔な女たちを始末していた可能性は考えられないのか。

 細かな脇のエピソードには、面白い場面がたくさんある。中でも、エチカと写真家志望の少女の出会いと別れが印象的だった。突然バースデイケーキが登場する場面は、彼女たちのどうしようもなく孤独な心が共鳴し合うシーンだと思う。ラストシーンも切ないよ。郷田の妹かおるを演じた黒沢あすかは、『レインマン』のダスティン・ホフマンも真っ青の自閉症演技で、観客をびっくりさせることでしょう。部屋中に洗剤を撒き散らして大掃除をする場面もすごいけど、部屋を訪ねてきたエチカと会話をする場面は鬼気迫るものがあります。

 この監督はユーモラスな描写が苦手なようで、普通の演出家なら必ずや観客をニヤリと笑わせるはずの場面で、どうしてもギャグが決まらない。回転すしでエチカの横の女性が次々エチカの欲しい皿を横取りする場面や、事務所で金井が持っていた銃が暴発する場面は、本当ならもっと面白くなってもいい場面なんだけどな。


ホームページ
ホームページへ