普通じゃない

1998/04/16 20世紀フォックス試写室
『トレインスポッティング』のダニー・ボイル監督最新作。
おてんば令嬢と誘拐犯と天使の物語。by K. Hattori



 『シャロウ・グレイブ』で衝撃的にデビューし、『トレインスポッティング』で世界中にイギリス映画旋風を巻き起こしたダニー・ボイル監督の最新作。主演はボイル監督作の常連で、今や売れっ子のユアン・マクレガーと、大物俳優との共演で度胸をつけ、すっかり女優業が板についてきたキャメロン・ディアス。この映画はボイル監督がはじめてアメリカで撮った映画で、配給は20世紀フォックスというハリウッドの大メジャー。それでいて作品には、ちゃんとダニー・ボイル監督自身の個性が生きている。やはりこの監督、ただ者じゃないですね。

 今回の映画は、現代のハリウッド映画らしからぬ作品ですが、基本プロットは1930年代から40年代にハリウッドで大流行した、古典的なロマンチックコメディの形式を借りている。人間の暮らす地上界での、男女関係の破綻ぶりに業を煮やした神様は、天使たちを使って男女の運命的な出会いと永遠の愛を復活させようと考えた。その任務を引き受けるはめになったのは、ホリー・ハンター扮するオライリーと、デルロイ・リンド扮するジャクソンという二人組の天使。彼らはこの任務に失敗すると、天上界には戻れないので必死。ところがリストにあがった恋人候補は、大会社の社長令嬢セリーンと、会社の掃除夫ロバートだったのだ。

 偶然と間の悪さと天使たちの策謀が図にあたって、ロバートはセリーンを誘拐して逃げることになってしまった。素人誘拐犯と、12歳の時にも1度誘拐されたことがある、ベテランの人質との珍道中がはじまる。父親の横暴ぶりにうんざりしていたセリーンは、この機会に父親の鼻をあかし、身代金をつかんで父親のもとから逃げ出そうと考える。何かと積極的なセリーンに対して、ロバートはいつも後手後手に回る情けない様子。やがてふたりは恋に落ちるかというと、落ちない! 天使たちは嘆きます。「昔はよかった。男女を引き合わせるだけで、後は勝手に恋に落ちてくれたのに」と……。

 というわけで、映画の基本的なコンセプトは古風なスクリューボール・コメディなのですが、中身はその古典的な装いを逆手に取ったパロディ風であり、ダニー・ボイル監督流のシニカルで、ブラックなユーモアにあふれている。気の強いお嬢様と、気の弱い小説家志望の青年が、どうやって互いを異性として意識し、恋に落ちるのかが見もの。ふたりの様子を一喜一憂して眺めている天使たちに、観客が思いっきり感情移入してしまいます。それにこの天使たちも、なかなか一筋縄では行かない曲者コンビ。ロバートとセリーンの恋は成就しない、もう天上界には戻れないとあきらめかけた時、開き直った彼らのとった行動が笑わせてくれます。

 ダニー・ボイル監督は『シャロウ・グレイブ』で古典的な犯罪スリラーを現代風にレストアし、今回は古典的なロマコメを現代風にレストアしている。現代風のロマコメと言えば去年も『ベスト・フレンズ・ウェディング』がありましたが、それに匹敵する楽しさでした。

(原題:a life less ordinary)



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