恋するシャンソン

1998/04/09 TCC試写室
古今のフランス流行歌を36曲も引用したコメディ映画。
ミュージカル映画とはちょっと違う。by K. Hattori



 2時間の映画の中に36曲のシャンソン(流行歌)をちりばめ、オリジナル歌手の録音にあわせて、登場人物が口パクをするという、かなり変わったコメディ映画。監督はアラン・レネ。脚本は『家族の気分』のアニエス・ジャウイとジャン=ピエール・バクリのオリジナル。彼らは出演もしています。「登場人物が次々にシャンソンを歌う映画」ということだけは知っていたので、最初は一風変わったミュージカルなのかと思っていたのですが、内容はそんな予想を見事に粉砕するものでした。

 映画の冒頭。真っ暗な画面からフェードインすると、ハーケンクロイツの旗が目に飛び込んでくる。舞台は第二次大戦中、ドイツ占領下のパリです。ドイツ本国の総統から「ただちにパリを破壊せよ」との命令を受けたドイツ人指揮官が、苦悶の表情で電話を切ると、突然「♪私の愛するものは祖国とパリにある♪」と歌いはじめる。これは1920年代から30年代にかけて、パリで爆発的な人気を得たアメリカ出身の黒人スター、ジョセフィン・ベイカーの代表曲「ふたつの愛」です。この時点で試写室は爆笑に包まれました。あとは同じ調子で、古い曲から新しいものまで、どんどん曲が登場してきます。

 この映画の歌の使い方は、登場人物がそのとき話す台詞に近いものを、歌詞の中から拾って来てそこだけ歌わせるのが多い。もしくは、登場人物のモノローグがわりに使っている。曲をまるまる1曲使うことは少なく、さわりだけを少し使っている例が多いのです。だから36曲も歌が入れられるんだよね。歌の引用法は大胆で自由奔放。男性歌手の歌を女優が歌ったり、女性歌手の歌を男性俳優が掛け合いで歌ったり、好きなように使っている。何しろ冒頭でいきなり険しい顔のドイツ人将校の口からジョセフィン・ベイカーの声が飛び出すのですから、その後はちょっとやそっとじゃ驚かない。

 台詞が継ぎ目なしに歌につながり、また台詞に戻ってくる感覚は、ウディ・アレンの『世界中がアイ・ラヴ・ユー』と同じです。ただし、アレンは「ミュージカル映画を作ろう」と思ってますが、アラン・レネはあえてミュージカル風になることを避けて演出したのだそうです。ミュージカルにしても楽しかったと思うけど、これはこれですごく楽しい映画になってます。僕はミュージカルファンだから、ちょっと残念でもあるけどね。

 楽しい映画ではあるけれど、フランスの流行歌に特別くわしいわけではない僕のような観客が観ても、この映画の本当の面白さはわからないと思う。日本人にこれをウケさせようと思ったら、同じことを日本の流行歌でやるしかない。戦前の懐メロから小室サウンドまで、縦横無尽に組み合わせたコメディ映画を作るわけです。あるいは、アメリカのポピュラー音楽でもいい。ティンパンアレーの流行歌から、ジャズ、ラテン、ブルース、ロック、ソウル、ラップなどを、次々つないで行けば、どちらかといえばアメリカの音楽に親しみを持っている日本人にも楽しい映画になることでしょう。

(原題:ON CONNAIT LA CHANSON)



ホームページ
ホームページへ