アイス・ストーム

1998/04/01 GAGA試写室
ホームドラマの名手アン・リーが1970年代のアメリカに挑む。
でも'97年の映画である必要を感じない…。by K. Hattori



 1970年代のアメリカ中流家庭を描くホームドラマ。監督が『恋人たちの食卓』『いつか晴れた日に』のアン・リー。主人公ベン役が『フレンチ・キス』『危険な動物たち』のケビン・クライン。その妻に『クルーシブル』『フェイス/オフ』のジョアン・アレン。ベンの不倫相手ジェイニーに、『エイリアン』シリーズのシガニー・ウィーバー。ベンの娘に『アダムズ・ファミリー』のクリスティーナ・リッチ。ジェイニーの息子マイキーにはイライジャ・ウッド。その弟サンディには『リトルマン・テイト』のアダム・ハン=バードが扮している。アン・リーは近年ホームドラマを撮らせると天下一品の人だし、クラインとウィーバーは『デーヴ』で共演した仲。これは面白いホームドラマであろうと思ったら、中身は予想外に重いもので面食らった。

 つい先日、1960年代への強烈なオマージュ映画『オースティン・パワーズ』を観たばかりだったので、今回の映画で'70年代を再現している部分は面白いと思った。テレビではニクソン大統領がウォーターゲート・スキャンダルについて釈明し、学校では女子生徒がドストエフスキーと実存主義の関係について講釈し、親は思春期の子供への性教育で悩み、ステレオからは流れている音楽はレコードの傷で針飛びしている。ファッション、髪型やメイク、インテリア、読んでいる雑誌や本、自動車、冷蔵庫と製氷皿……。細かいところまで、「おお、確かに20年前はこうじゃったわい」というアイテムが勢揃い。家庭内では親たちと子供たちが断絶し、子供はマリファナや睡眠薬などの軽いドラッグに走り、大人は近所の家で開かれるきわどい内容のパーティーに参加する。今から見ると不健全で不健康にも思えるけど、家庭内でコミュニケーションをとらなければという強迫観念だけが先行していた時代かもしれない。

 自由の範囲がどんどん拡張し、若者たちの反乱が賞賛されていた'60年代が終わり、手に入れた自由を手放すことも、旧来の価値観に戻ることもできずに右往左往していたのが、'70年代なのかもしれない。こういう状態は、現代の日本にも二重映しになってくる。バブルに浮かれているうちに、日本人も帰るところを失ってしまったのかもしれない。そのツケを、誰が払うんだろう。

 '70年代を舞台にしている映画だけど、その中には、25年後の我々の価値観や視点が入り込んでいる。当然それは、批判的な眼差しであることが多いのだが、この映画が1997年の映画である以上、25年前の世界から「25年後の1997年を批判する視点」も盛り込まれているはずです。ところが僕には、それがもうひとつピンとこなかった。なぜこの映画が「今」作られなくてはならないのか、僕には釈然としかねる部分がある。これは、僕がアメリカ人ではないから釈然としないのかもしれないけど、アン・リーもまったきアメリカ人ではないからね。彼の『いつか晴れた日に』はコスチュームプレイだったけど、ちゃんと「今の映画」だったけど……。

(原題:ICE STOME)



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