ザ・ワイルド

1998/03/27 20世紀フォックス試写室
飛行機で遭難した男たちが、人食い熊の襲撃に立ち向かう。
デイビッド・マメットが描く男のドラマ。by K. Hattori



 アラスカの原生林の中に墜落した飛行機から、3人の男たちが脱出。自らの生存をかけて、過酷なサバイバルが始まる。だが彼らを追って、巨大な人食い熊が接近。果たして彼らは、生きて文明世界に戻れるのか? 主人公はアンソニー・ホプキンス扮する世界的な大富豪チャールズ・モースと、アレック・ボールドウィン扮するカメラマン、ロバート・グリーン。チャールズには年の離れた美しい妻がいるが、ロバートは彼女に恋をしている。巨万の富、美しい妻、さらに知性と人徳と知識まで身につけたチャールズに、ロバートは嫉妬し、殺意を感じるほどだ。だが遭難という極限状況から脱出するためには、二人が力を合わせる必要がある。

 原題の『THE EDGE』には、主人公たちが追い込まれた「極限状況」という意味と同時に、チャールズの誕生日にロバートから贈られたナイフの意味もある。(EDGEには「刃」という意味がある。)飛行機の墜落時、チャールズはナイフを使って同乗のアシスタントカメラマンを救出し、木っ端を切り裂いて火をおこし、罠を作って小動物を捕らえ、ヤリを作って熊の襲撃に備える。最近、中高生が学校にナイフを持ち込んで云々、という報道を頻繁に耳にするが、ナイフとは本来、この映画に描かれているような使い方をするものです。主人公の持つナイフは、使い方を誤れば持つ者本人を傷つける事故を生む危険性を持っているものの、この1本のナイフなしには、彼らは森から生きて出ることができなかった。人間が生きていく上で、1本の鋭利なナイフがいかに有効なものか、この映画を観ると、それがじつによくわかる。

 監督は『ワンス・ウォリアーズ』『狼たちの街』のリー・タマホリですが、むしろ注目すべきなのは、脚本を書いているのが、『グレンガリー・グレン・ロス』(映画題『摩天楼を夢見て』)や『アメリカン・バッファロー』で知られるアメリカ演劇界の重鎮、デイビッド・マメットだという点でしょう。ぐつぐつと煮詰まって行く男たちの感情的対立は、まさにマメットならではのもの。邦題が『ザ・ワイルド』で、内容は「飛行機で遭難した男たちが、人食い熊に襲われる話」ときては、単なる動物パニック映画に受け止められそうですが、この映画における熊の役目は、感情的に離反している男たちを、ひとつ所に強制的に集めておく「強制力」なのです。広大な自然の中に熊が1頭いるだけで、そこは男たちが片寄せあって生きることを強いられる密室になる。この物語を成立させるには、“人食い熊”をどれだけ恐ろしく描けるかにかかっている。その点、森の中で大人の脚ぐらいの太さがある立ち木をへし折りながら突進する熊の描写には、有無を言わさぬ迫力がありました。

 ホプキンス演じるチャールズのキャラクターが完璧すぎるのが、この映画の弱点だと思う。いびつな人間が、自然の中で少しずつ「本物の人間」になってゆく変化がないと、ドラマにならないと思うけどな。スーパーマンが主人公では、ラストシーンも弱くなる。

(原題:THE EDGE)



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