ピースキーパー

1998/03/25 KSS試写室
ドルフ・ラングレンが盗まれた核ミサイルのボタンを取り戻す。
紛れもないB級映画だが、中身はA級。by K. Hattori


 ドルフ・ラングレン扮する空軍少佐が、テロリストの核ジャックからアメリカを守る物語。タイトルが『ピースメーカー』に似ているし、核ジャックという素材まで同じ、しかも主演がドルフ・ラングレンときては、中身はインチキくさいB級アクション映画に決まっている。誰もがそう思っても仕方がない。だがこの映画は、あの『ピースメーカー』より数段面白いのだ。

 この映画は、アクションも充分に見せるし、キャラクター造形も見事。何より、テーマが明確で迷いがないのがいい。この映画のテーマは「反核」なのですが、それを声高に演説することなく、物語の中できちんとメッセージとして消化している。この手腕はなかなかのものですよ。この素晴らしい脚本を書いたのは、『バッドマックス』の脚本コンビ、ロバート・ジョフィリオンとジェームズ・H・スコット。監督はこれがデビュー作のフレドリック・フォレスティアー。この映画を撮っていたとき、まだ25歳だったというから驚きます。

 核ジャックは今まで何度もアメリカ映画に登場した定番のネタですが、アメリカ自体がその標的になることはあまりなかったし、実際にアメリカ人に被害が出ることはほとんどなかったと思う。それは、アメリカが核ミサイルの被害者になるという恐怖が、核ミサイルの否定そのものにつながることを恐れたからだと思う。冷戦を生き延びたアメリカ人にとって、核ミサイルを否定することはタブーだったのです。しかし冷戦が終わり、核ミサイルの廃棄が真剣に検討されてきた現在、アメリカ人も自らの手に持っている悪魔の兵器について、冷静に考える余裕が出てきたようです。

 この映画に、主人公と行動を共にするミサイル基地の司令官が出てきます。この人物こそが、この映画のかなめでしょう。彼は数年前、指令本部との連絡不備から、核ミサイルの発射ボタンに指をかけたことがあった。その時のプレッシャーから、彼は核戦争について独学で学びはじめ、核兵器が人類共通の敵であるという信念を持つようになったのです。彼はそれ以来、密かに反核思想を持つミサイル基地司令官として生きてきた。基地の閉鎖は、彼にとって喜ばしいことなのです。だがその最後の日に、基地はテロリストたちによって占拠される。

 テロリストたちの発射したミサイルが、アメリカ国民の頭上で炸裂します。被害状況を読み上げながら、しんと静まり返る作戦司令室。この映画には、核兵器による被害の「痛み」が描かれている。もちろんそれは、アメリカ人が「頭で理解しようとした痛み」ですが、こんな描写を、僕はここ何年かのアメリカ映画で観たことがありません。この映画には、核戦争への恐怖、核兵器に対する憎しみが露骨に描かれている。しかもそれを、B級娯楽映画という枠内で描いているのです。

 映画の序盤にすごいカーチェイスがあって、それだけでもこの映画を観る価値があります。加えて、映画にあふれる真摯なメッセージに耳を傾けてみてください。

(原題:THE PEACEKEEPER)


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