元気の神様

1998/03/18 東映第2試写室
イジメにあっている息子のもとへ父親が幽霊となって現われる。
観客がしぼりきれていないファミリー映画。by K. Hattori



 さまざまな問題を抱えた息子と母のもとに、3年前に死んだ父親が幽霊となって訪れるファンタジー。学校でのいじめ、こぶ付きバツイチ女の新しい恋、家庭での嫁の立場の危うさなど、さまざまな問題を巧みに物語に盛り込んだ映画だ。主演は松田美由紀、古尾谷雅人、子役の内山眞人、いしのようこ、嶋田久作、村上淳、坂本スミ子、渡辺えり子、田口トモロヲ、藤原喜明など、かなり豪華な顔ぶれ。監督はベテラン中村幻児、脚本は『GOING WEST/西へ』の川瀬晶子。試写を観た翌日、宣伝を担当しているゼアリズの担当者に映画の感想を話したので、それに沿って書いてみる。

 まず映画の率直な感想だが、同じ脚本家の『GOING WEST/西へ』に比べると格段に面白い。ただし、『GOING WEST/西へ』はまったくの駄目映画だったので、相対的に「よい」と評価したところでたかが知れている。『元気の神様』は資料に書いてあるプロットを読んだ限りでは面白そうなのに、映画本編を観ると物足りない仕上がり。子供も大人も楽しめるファミリー映画を指向したのはわかるし、大事なことだと思うが、結果としては、誰が観ても中途半端な映画になっていると思う。例えば、息子が学校でいじめられている描写があるが、その問題は何も解決しないまま映画が終わる。母親の再婚を予感させて映画は終わるが、恋愛映画としてはドラマが物足りなすぎる。このあたりは『素晴らしき日』などを参考にしてほしかった。

 肝心の幽霊が現われる場面も、ファンタジーとしての味わいに欠ける。こうした映画の中だけで通用する「魔法」は、タイミングよく「出るべき時に出る」から観客は納得できるものなのに、この映画にはそれがないから、幽霊がひどく場違いなところに現われたように見えてしまう。魔法を描いた映画としては、例えば『ライアーライアー』でロウソクを吹き消す場面の素晴らしさが忘れられないが、幽霊ということなら『ゴースト』や『愛が微笑むとき』なども参考に出来たと思う。宅配ピザの姿をした死神や、自転車を猛スピードでこぐ藤原喜明など、キャラクターとしては面白いのに、それが生きていない。

 ファミリー映画として観ると、いしのようこと恋人がラブホテルで身体の洗いっこをする場面は不要だと思う。この場面があると親子で映画を観たとき、ちょっと気まずい思いをするだろう。別段この場面がなくてもふたりの関係は十分に伝わるのだから、別の方法で話を進める工夫をすべきだった。物語のアイデアは面白いのに、全体にもう一歩踏み込み不足な感じが付きまとう。もう少しですごく素敵な映画になるのに、その手前で終わっているのがもどかしい。これは脚本の力不足だろう。

 怪人物役が多い嶋田久作が、ヒロインの新恋人役で登場。彼は明智小五郎などのヒーローを演じることはあっても、ロマンチックな役とは無縁だと思っていただけに新鮮。ただし、この人物のエピソードはまだまだ薄い。もう少し肉付けしてあげるとよかったと思う。


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