ザ・クリーナー

1998/03/11 徳間ホール
スティーブン・レイが凄腕の殺し屋に扮したサスペンス映画。
物語は平凡だが映像感覚は非凡だ。by K. Hattori



 麻薬組織を捜査するため、資金の洗濯屋として組織に近づいた女捜査官。しかし彼女の目の前で、組織の幹部は殺し屋の手にかかって射殺される。至近距離から頭部に2発の弾丸と、現場に残されたウサギの手のお守り。今までも同様の手口で犯行を繰り返す、凄腕の殺し屋の仕事だ。この暗殺を依頼したのは、敵対するふたつの麻薬組織のうちどちらかだと思われたのだが、残る組織の幹部も同じ殺し屋に射殺されて全組織が壊滅……。どうやら強力な外部勢力が、殺し屋を雇って組織の再編に乗り出したらしい。メンツを潰された捜査官たちは、殺し屋に接近することで、事件の裏側を探ろうとする。

 『クライング・ゲーム』の冴えないテロリスト役など、いつも眠そうな目をしているのが印象に残るスティーブン・レイが、凄腕の殺し屋に扮したサスペンス映画。彼の正体を探ろうと接近する女性覆面捜査官には、今までテレビで活躍することの多かったヘザー・ロックレアが扮している。監督はこれが2作目になるグレッグ・ヤイタンスで、本作が日本初紹介になる。この映画は『リーサル・ウェポン』の製作・監督コンビ、ジョエル・シルバーとリチャード・ドナーが創設したディケイド・ピクチャーズの第1回作品。大スター主演、有名監督の演出、大予算の映画ではなく、中堅や新人に近い俳優やスタッフで映画を作ろうというコンセプトのようです。言ってみれば、最初からマスでの勝負を狙わず、ビデオやCATVを狙っているのだと思う。日本での公開も規模が小さく、最初からビデオを視野に入れてのものです。

 そんなわけで、全然期待せずに映画を観はじめたのですが、これが意外に面白く観られた。これは監督の映像センスが優れいているからだと思う。例えば、映画の冒頭で、ヒロインが麻薬組織の幹部と話をする場面があるけれど、その場所がポルノ映画館のスクリーンの裏。この舞台装置自体は、以前に別の映画でも観た覚えがあるんですが(何の映画だったかは失念)、規模がすごく大きくなっているし、スクリーンの映像とその全面で行なわれている芝居の対比なども洒落ている。カメラの移動やカット割りなどもスピーディーで、そのリズムやテンポだけで、ぐいぐい観るものを引き込んでいく力を持っている。この映画のストーリーは、取りたてて面白いものではない。しかし絵作りに力があるので、平均レベルの映画がそれ以上のレベルに格上げされている。

 この映像感覚は、明らかにMTV系のもの。具体的な監督名で言えば、ラッセル・マルケイを連想させるものがあるのだが、冒頭の映画スクリーンを使った演出は、ラース・フォン・トリアーの『ヨーロッパ』をすぐに思い出させる。本作そのものから監督の個性やユニークさを感じさせる部分は少ないのですが、あっちこっちの映画から「いいとこどり」しているのはわかる。この監督のすごいところは、それが猿マネではなく、自分の手の中に入ったテクニックとして消化されているところでしょう。これもひとつの才能だと思います。今後要注意。

(原題:DOUBLE TAP)



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