恋愛小説家

1998/03/06 ソニーピクチャーズ試写室
J・ニコルソンが不器用に生きる恋愛小説の大家を好演。
共演のヘレン・ハントも素晴らしい。by K. Hattori



 ジャック・ニコルソン主演のロマンチック・コメディ。ロマンチックな言葉の数々で女心をとろけさせる恋愛小説の大家メルビン・ユドールは、私生活の面では人間嫌いの偏屈親父で、しかも極度の潔癖症、なおかつ道路の継ぎ目が踏めないという強迫神経症の持ち主だ。彼の奇矯な振る舞いは、はっきり言ってしまえば「気狂いじみてる」のですが、ジャック・ニコルソンという超個性的な俳優のキャラクターに、それが上手く隠されて、ほどよいアクセントになっている。しかもメルビンのこれらの行動が、単なる人物像の味付けではなく、後々の物語に上手く織り込まれてゆくあたりは見事です。

 監督のジェームズ・L・ブルックスは、『愛と追憶の日々』でニコルソンにアカデミー助演男優賞を取らせた人物。ニコルソンの個性の生かし方を、じつによく心得ています。この映画は今年のアカデミー賞で、主要7部門にノミネートされています。ひょっとしたら、ニコルソンはこの映画で再びオスカーを手にするかもしれません。

 この映画はニコルソン扮するメルビンに、行き付けのレストランのウェイトレスをしているキャロル、隣人の画家サイモンがからんだ3人を中心としたドラマです。中でも、自分を含めたすべての人間を軽蔑している作家が、いかにして自分を取り巻いている世界を愛するようになるかが最大のテーマ。それには「他人の善意を信じる」「善意には善意で報いる」ことがベースになっている。メルビンの行動は最初すべて利己的なものから始まるけれど、形としては「善意」に見える。メルビンの利己的行為に「善意の報い」が返ってくることで、やがてメルビン自身が、自分や他人の善意を信じられるようになるのです。映画のラストシーンを観ても、メルビンとキャロルの前途は多難に見えますが、ふたりがその後どんな関係を作って行くにせよ、「他人の善意を信じる」ことができた彼らは、それまでとは違った世界に住むことになるでしょう。それはとても素晴らしいことです。

 2時間18分という長尺の映画ですが、それをまったく苦にさせない、先の読めないストーリー展開と、役者たちの軽妙でツボにはまった芝居の応酬、抜群のテンポで時間を刻む編集の妙技。無駄な場面や冗長に感じるシーンがまったくない映画です。最近流行のSFXや派手なアクションシーンもなく、ひたすら役者たちの作り出す「人間のおかしさ」で見せて行く味わい深い作品と言えるでしょう。ただしお芝居に偏りすぎて、画面にスケール感がないのは残念。物語がほとんど室内だということも含めて、なんだか舞台劇を観るような映画です。

 キャロル役のヘレン・ハントは、『ツイスター』のぼんやりした印象を吹き飛ばす好演。ゴールデングローブ賞受賞、アカデミー賞ノミネートも納得です。脇役たちも豪華。『ザ・エージェント』でアカデミー助演男優賞を取ったキューバ・グッディングJr.が画商役で登場。『スクリーム』『タッチ/Touch』のスキート・ウールリッチもちょい役で出演しています。

(原題:AS GOOD AS IT GETS)



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