ラストサマー

1998/03/02 ソニーピクチャーズ試写室
脚本家は『スクリーム』と同じ人ですが、原作があるから……。
話の運びも演出も悪くないが釈然としない。by K. Hattori



 新感覚の青春ホラー映画として話題になり、世界中で大ヒットした映画『スクリーム』の脚本家ケビン・ウィリアムスンが書いた脚本を、スコットランド出身の新人監督ジム・ギルスピーが映画化。内容は例によって若い学生たちが連続殺人犯に追われる青春ホラーで、キャスティングもこの手の映画に必然的な無名俳優だらけ。映画会社のウリも“『スクリーム』の脚本家”という部分しかないようですから、ちょっと集客が心配な作品です。

 例外的に有名女優がひとりだけ出演していますが、その名はアン・ヘック(ヘイシュ、ヘッチ、ヘイチとも言う)。『ボルケーノ』の女科学者役が記憶に新しい女優ですが、いまいちマイナーで映画の引きにはなりますまい。何しろこの女優、いまだに名前のカタカナ表記が揺れているという二流スターですし、ゲイであることをカミングアウトしているため、今後はメジャーで大きな役を振られることも少なくなるでしょう。僕は個人的に嫌いな女優ではないので、いつどんな形で登場するのかと身構えていたら、血まみれのナイフを振りかざしながら主人公を追いかけるという異常な役でした。これはちょっと気の毒だった。ハリウッドでは「レズの女優=変態」という方程式になってしまうのかなぁ……。

 高校生活最後の夏休み。それぞれの進路も決まり、希望に胸ふくらませている4人の高校生たちの乗る車が、夜道でひとりの男をはねてしまう。ほろ酔い気分も、甘いムードも吹っ飛び、一瞬にして全身の血が引いていく若者たち。幸い目撃者はいない。4人は、自分たちの将来を守るために、事故を闇から闇に葬ろうとする。死体を海に沈めて、これから一生事件を口外しないと誓う4人。事件はそれで終わるはずだった。しかし1年後、事件のショックからノイローゼ気味になり、大学の進級がおぼつかなくなっているジュリーのもとに、差出人不明の手紙が届けられる。そこには「去年の夏、お前が何をしたか知っているぞ」とだけ書かれていた……。

 『スクリーム』の面白さを期待すると、大きく裏切られると思う。『スクリーム』が受けていた最大理由は、ホラー映画の中でホラー映画を論ずるメタ批評性にあったんですが、今度の映画にそれはない。かわって導入されているのが、脅迫者の正体をあの手この手で探すミステリー風の味わいですが、脚本に盛り込まれた謎解き趣味も、監督の繰り出す手垢のついた、しかし効果的なショッカー演出の前でかすんでしまった。この映画の中盤に必要なのは、瞬発力のあるショックではなく、じわじわ遠巻きに迫ってくるサスペンスだと思うのですが、そのあたりの描き分けがうまく行っていないと思う。

 ホラー映画は「悪いことをした人は残酷な死を迎え、善良な人は生き残る」という単純明快なモラルが信条だと思っていたのですが、この映画はそのあたりで少し疑問もある。自分たちが傷つけた人が誰であれ、警察に行かなかったのは問題だと思う。このあたりは、どうしても最後までスッキリしなくて後味が悪い。

(原題:I KNOW WHAT YOU DID LAST SUMMER)



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