バタフライ・キス

1998/02/18 シネカノン試写室
アマンダ・プラマー扮する連続殺人犯と彼女に恋した女性。
女ふたりの絶望的なロード・ムービー。by K. Hattori



 アマンダ・プラマーは、僕の1番のお気に入り映画『フィッシャー・キング』でロビン・ウィリアムスの恋人リディアを演じ、忘れ得ぬ印象を残した女優です。同じ映画に出演してアカデミー賞を取ったマーセデス・ルールも素敵でしたが、僕にとってはアマンダ・プラマーこそ心の恋人。そのアマンダが、この映画では全身にボディピアスをし、素肌にチェーンを巻きつけて登場。ヌードシーンあり、セックスシーンありで、しかも役柄は連続殺人犯。ファンタジックな『フィッシャー・キング』と違ってドキュメンタリー・タッチの映画だから、肌はしわだらけでガサガサに撮れてるし……。そんな愛しい女優のこんな変わり果てた姿を見て、僕としてはちょっとショックもあったんですが、映画はそれ以上に衝撃的で挑発的な面白さでした。

 監督はイギリス人のマイケル・ウィンターボトム。この監督は、昨年夏にハーディ原作の『日陰のふたり』が公開されたのを皮切りに、『GO NOW』『バタフライ・キス』と、次々日本に作品が紹介されている人です。キャリアとしては、今回の『バタフライ・キス』が劇場映画デビュー作で、『GO NOW』が2作目、『日陰のふたり』が3作目になりますから、日本では作品履歴をさかのぼるように映画が公開されていたことになる。4作目の『WELCOME TO SARAJEVO』以降も、日本で公開されることが決定しています。映画監督が映画を撮れないのは日本だけでなく、アメリカもイギリスも同じなのですが、そんな中でウィンターボトム監督は、精力的に次々と映画を世に送り出している。しかも3作品を観る限り、どれも作風がひとつひとつ違うのです。先々どんな映画を作るのかまったくわからない、楽しみな才能です。

 アマンダ・プラマー扮する主人公ユーニスは、街道沿いのガソリンスタンドに飛び込んでは女店員に「あなたはジュディスって名前じゃない?」と質問する変わった女です。「違う」と言われると、相手を殺してしまう。彼女は徒歩やヒッチハイクで街道を移動しながら、ジュディスを探し続けている。そしてある時、ガソリンスタンドで働くミリアムと出会うのだが、ミリアムはユーニスに恋をしてしまう……。

 ユーニスがなぜ殺人を繰り返すのか。なぜ全身にピアスや刺青をしているのか。なぜ彼女はジュディスを探しているのか。それは映画の最後までまったくわからない。漠然と伝わってくるのは、ユーニスの心が深く傷ついていることと、その傷によって彼女の精神は病んでおり、彼女自身がそれ自覚しているらしいという事実です。彼女は孤独を癒すためにジュディスを探し求め、殺人を繰り返す。お話だけなら馬鹿みたいですが、ユーニス役のアマンダ・プラマーは全身で彼女の絶望や孤独を演じきり、鬼気迫る迫力と存在感が感じられます。

 ビデオを使った回想形式の構成も効果的。残酷なシーンはあるけれど、血生臭さはない上品さです。ミリアム役のサスキア・リーヴスも、凄い芝居を見せてくれます。

(原題:Butterfly Kiss)



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