アミスタッド

1998/01/21 UIP試写室
19世紀に実際に起きた奴隷船の反乱事件を描くスピルバーグ最新作。
重厚で脂ののりきった力強い演出ぶりに感激! by K. Hattori



 ドリームワークスの第2弾は、大本命スピルバーグの最新作です。19世紀の半ば、アメリカで実際に起った奴隷船反乱事件の記録を、実話に沿って映画化したものです。映画のタイトル『アミスタッド』は、反乱事件があった船の名前。この名前には、スペイン語で「友情」という意味があるそうです。2時間35分の大作ですが、少しもだれることなく最後まで観てしまいます。映画の出来としては、アカデミー賞を取った『シンドラーのリスト』よりバランスの取れた傑作ではないでしょうか。『シンドラーのリスト』にあった、スピルバーグの当事者意識、同族意識、「我が民族の悲劇」を描く思い入れの強さのようなものがない分、彼の監督としての力量がストレートに現われている。描く対象を第三者として離れて見られる分だけ、今度の映画の方が描写が丁寧だし、映画的な飛躍なども恐れることなく行なっている。演出全体に、すごく余裕があるのです。

 物語は奴隷船の反乱から始まりますが、これは反乱事件そのものを描く映画ではありません。この映画で描かれているのは、その反乱事件に、アメリカ人たちがどう対処したかという点です。体裁としては、裁判映画のスタイルをとっている。黒人を守ろうとする弁護士役はマシュー・マコノヒー。『評決の時』に続いて、黒人のために働く弁護士を演じます。彼の雇い主である奴隷解放運動家で、自身も元奴隷だった経験を持つ男がモーガン・フリーマン。彼らの裁判を支援し、最後は共に戦う元大統領ジョン・クインシー・アダムスを演じるのは、名優アンソニー・ホプキンス。反乱奴隷たちのリーダーを演じているのは、ジャイモン・ハンスゥです。

 この物語の時代、アメリカには奴隷制度が歴然と残っていました。そこに持ち込まれたアミスタッド号事件は、アメリカの社会にも大きな影響を与え、裁判は政治色を帯び始めます。この映画は、そんな政治的圧力に屈することなく、法の正義を貫きとおした人たちの誠意と勇気を描いてゆく。しかしそこで描かれている「正義」は、法に基づく正義であり、奴隷制の上に立った正義なのです。この映画の難しさは、まさにそのあたりにある。真の人間性回復を求めるのであれば、話は奴隷制度解体まで行かなくてはならないのですが、そこまでは話を広げると、アミスタッド号の史実から離れてしまう。このあたりはスピルバーグがじつうまく整理してまとめ、奴隷解放運動と裁判とを切り離すことに成功しています。

 物語の上では切り離された「奴隷制」そのものに対する態度ですが、この映画のテーマが「奴隷制」という人間性に対する暴力への怒りであることは明らかです。それは映画の最後に現われる、物語の後日談が明白に語っている。ここでいう「奴隷制」というのは、人間の自由を抑圧している制度の、ひとつの象徴なのです。

 ラストシーンは少しショックを受け、エンドタイトルではじわじわと感動が広がって涙がこぼれそうになりました。スピルバーグの演出ぶりを堪能できる映画です。

(原題:AMISTAD)



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