台北ソリチュード

1998/01/14 シネセゾン試写室
かつて近親相姦関係にあった姉弟が、それぞれの人生を歩み出す。
回想シーンの使い方に品がないのが残念。by K. Hattori



 台湾製のホームドラマですが、僕にはあまりピンと来なかった映画です。兵役を終え、家に帰ってくる弟をそわそわと待つ姉。弟のために実家の部屋を整理し、今か今かと待ち続けるが、弟は姉が待ちくたびれて帰った頃を見計らって戻ってくる。姉の気持ちとは裏腹に、弟の方は姉と顔を合わせたくない事情があるようなのです。実家の父と弟は折り合いが悪く、いつも言い争ってばかり。その結果はいつも同じで、高圧的な父が息子をやり込めることが多いのです。この日も、帰って来たばかりの弟は父と言い争い、家の金を盗んでぷいと出ていってしまう。彼は持ち出した金で街の安宿に泊まり、女を抱き、酒を飲むのです。金がなくなれば、宿の料金を踏み倒し、実家にこっそり戻ってはまた小銭を盗むのです。

 物語の序盤から、弟に向ける姉の眼差しがただならぬことには気づきますが、じつはこの姉弟、ずっと以前は近親相姦関係にあったのです。その関係は姉が流れ者の男と駆け落ちし、家を離れるまで続きます。姉はその後、駆け落ちの相手と別れ、今は父の仕事を手伝う男と再婚していますが、それも別居状態。この姉弟にとって、過去の記憶がいつまでたっても心に傷を残したままのようです。この記憶は姉弟だけが共有するもの。他の人たちは、姉弟の関係を知りません。

 こうした姉弟の秘められた関係が、家族の中に見えない影を落しているという設定なのですが、その見せ方が僕にはどうもヘタクソに感じられてならない。現在進行形のドラマをカラーで、過去を荒れたタッチのモノクロで描くという、ものすごく古臭い手法で語っているのが「今さら」という印象を持たせます。また物語の中で、過去のいきさつを細切れに出して行くのも、なんだかけち臭い感じがしました。これは少しずつほのめかすぐらいでいいんじゃないでしょうか。説明過多で、かえってグロテスクに思えてしまいます。『萌の朱雀』のように、まるっきり説明をしない映画も困るけど、この映画のように説明過剰なのも映画の品格を落します。

 序盤の姉弟の関係を見ただけで、このふたりの関係がただならぬ物であることは観客にも容易に想像ができる。あとはふたりの現在の関係を丁寧に描き、クライマックスでふたりをキスさせれば、安っぽいモノクロ映像などなくても、観客はすべてを理解できるはずです。モノクロとはいえ、ふたりの過去を映像にしてしまったことで、かえって観客はふたりの関係をすべて知った気になってしまう。世界を狭い場所に限定してしまうのです。同じように回想シーンを入れるなら、かつて家族が住んでいた農村部の風景を強調するなどして、家族をかこむ環境の変化をたっぷり取り込んだほうがよかったと思う。

 弟は何を考えているかわからない、ボンヤリした人物なのですが、娼婦を買うシーンで見せる濃厚なセックス描写だけが、存在感を引き立たせる。家族という目に見えない絆より、今目の前にある肉体のつながりに実感を求める彼の気持ちが、じつによく現われている場面です。


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