いますぐ抱きしめたい

1998/01/06 ユーロスペース
ウォン・カーウァイの映画監督デビュー作。10年の時の流れに感慨。
演出は粗削りだけど、ポイントは押さえてます。by K. Hattori



 ずっと観逃していたウォン・カーウァイの監督デビュー作を、ユーロスペースのリバイバル公開でようやく観る事ができた。この監督の映画は『恋する惑星』から観はじめて、『天使の涙』『楽園の瑕』『欲望の翼』と、どんどんさかのぼって観ていたんだけど、最後に処女作でひっかかった。今回これを観たので、一応はウォン・カーウァイ監督作品の長編作品を一通り観たことになる。映画の内容について云々するより、こうした「達成感」の方が大きかったりして……。

 義理人情のしがらみから、愛する女との暮らしを振りきって死んで行く、若いやくざの話です。やくざな暮らしを続けながら、そこから脱出しようとして果せない主人公を演じているのはアンディ・ラウ。彼と愛し合うようになる従兄妹を演じているのは、今もっとも活躍しているアジア系女優のひとりマギー・チャン。一人前のやくざになりたいとあせるあまり、いつもアンディに迷惑をかけてしまう弟分にジャッキー・チュン。みんな若くて初々しいなぁ。1988年の映画だから、今から10年前の作品なんだね。マギー・チャンが今より少しふっくらしていて、肌なんかピチピチしてるんだよね。今じゃかなりオバサン顔になってきちゃいましたけど、若いときはやはり若いなりのホルモンがみなぎってますね。

 ウォン・カーウァイは撮影のクリストファー・ドイルと組んでさまざまなトリック撮影を行ない、今ではそれが彼の映画のイコンになっている気配さえあります。ウォン・カーウァイ映画に必ず登場する撮影技法は、通常スピードで撮影した映像をオプチカル処理してスローモーションにする「コマ伸ばし」という技法でしょう。このデビュー作はアンドリュー・ラウが撮影を担当していますが、ここでも何ヶ所かでコマ伸ばしを使って、効果的に場面を演出しています。ただし、『楽園の瑕』以降観られるようになった、画面の大半が流れて見える、極端なコマ伸ばしはまだ観られません。『いますぐ抱きしめたい』に関しては、コマ伸ばしを「後づけのハイスピード撮影」として使っているような気がする。とりあえずノーマルで撮影しておいて、あとから「スローの方が効果的」と思うと、そこだけコマを伸ばしているんじゃないだろうか。だからこの映画のスロー場面は、メリハリに欠けてやや一本調子です。

 編集がかなり極端で、別の言い方をすればダイナミックに仕上がっています。ラストシーンもすごいんですが、その前の場面、アンディの乗るバスが見送るマギーを追い越して行くシーンで、マギーの顔を回り込むカメラの映像からバスの中のアンディに映像がカットバックし、その後マギーの顔に戻ると、時間経過としては当然見えていなくてはならないマギーの表情が、まだ見えてこない。こうして、マギーの表情を観たいけど、なかなか見えないアンディのフラストレーションに観客を同化させるわけです。あざといけど、これが効果的。これがあるから、ラストのフラッシュバックが生きている。


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