ドライ・クリーニング

1997/12/19 ガスホール(試写会)
平凡なクリーニング店夫婦の関係がひとりの青年の出現で大きく変わる。
ミウ・ミウとシャルル・ベルリングの素晴らしい芝居! by K. Hattori



 試写に行くとき特に意識しているわけではないんだけど、その日に観る映画が似通ってくることがある。ある時は邦画ばかり3本、別の日は香港映画を2本などと、同じ国の映画が続く。この日はフランス映画を2本観ることになりましたが、この『ドライ・クリーニング』は直前に観た『a.b.c.の可能性』と同じように、地方都市を舞台とした映画です。この映画の舞台になっているベルフォールの町はストラスブールほどパリから離れているわけではないのですが、地方都市でくすぶっていることによるストレスやコンプレックスが、映画のひとつのテーマになっている点は似ています。

 小さな町のクリーニング店を舞台にしたホームドラマです。主人公はクリーニング店の女房ニコル、店主ジャン=マリーのふたり。中年にさしかかった、ごく平凡な夫婦です。映画の冒頭で、商店街の店主たちが売り出しセールの相談をしている場面があります。この映画が特別な夫婦関係や異常な出来事を描いているわけではなく、日常の延長上にある人生の迷宮を描いていることを暗示しているのでしょう。商店主たちの寄り合いの帰り道、主人公たちは地元の安キャバレーでゲイカップルの出演するショーを見ます。翌日、そのショーに出演していた青年がクリーニング店に衣装を持ち込んだことから、クリーニング屋夫婦と青年との交際が始まるのです。

 ニコルを演じたミウ・ミウが、夫を愛しながらも青年ロイックとの情事に溺れて行く妻という、じつに難しい役を好演しています。ロイックの出現で夫婦仲が危機に陥るが、彼の存在でかえって夫婦の絆が強くなって行くという皮肉な関係。彼女にとってロイックは、夫婦の平凡な生活に欠けていた都会風のエレガントさの象徴。結婚することで自分が捨ててしまった夢を思い出させ、しかも肉体を通じて新しい夢を見させてくれる人物です。ややアンバランスになりかけていた夫婦の関係は、ロイックの出現でバランスを取り戻す。彼との情事がニコルにとっての精神安定剤であり、夫婦円満の秘訣なのです。

 妻とロイックの関係を薄々勘付きつつも、ロイックの持つ不思議な魅力のとりこになって行くジャン=マリー。やがてその気持ちは、ロイックに対する恋情という面を際立たせて行く。ニコルが既成のモラルをやすやすと飛び越えてしまったのに比べ、ジャン=マリーは最後の最後まで自分の考える最後の一線を超えられない。ロイックに対する気持ちを指摘されると、それに動揺してパニックを起こしてしまう。妻とロイックの関係を知りながら、それを見て見ぬふりすることで、家族の絆という果実だけを味わおうとするジャン=マリー。彼も自分自身の気持ちは「見て見ぬふり」を通すことができないのでしょう。それが最後に悲劇を生み出してしまう。

 ジャン=マリー役のシャルル・ベリングは、『ラブ etc.』でシャルロット・ゲンズブールに言い寄っていた男です。ミウ・ミウより実際は8歳も年下なのですが、しっかり中年夫婦に見えました。役者ってすごいね。


ホームページ
ホームページへ