川のうつろい

1997/12/18 TCC試写室
激動のフランス革命から取り残されたアフリカのフランス植民地。
恋あり冒険ありの文芸作。邦題以外は気に入った! by K. Hattori



 『川のうつろい』という邦題がそもそも駄目。今年観た映画の中で、1,2を争う駄目さだね。「川」という単語と「うつろい」という単語は、普通の国語感覚だとなかなか結びつかない。それを強引に結び付けて新鮮さを感じさせているかというと、そんなことはぜんぜんない。珍奇で苦しい印象だけがあって、そこからどんなイメージも湧いてこない。タイトルによっては、映画を観る前は釈然としなくても、映画を観終えたときに「ああなるほど」と思わせるものがある。最近だと例えば『のら猫の日記』や『この森で、天使はバスを降りた』などが格好の例。映画を観た後は「このタイトルでなければ!」という気にさせられてしまう。でも『川のうつろい』にはそうした得心がない。

 原題は『Les Caprices d'un Fleuve』という。直訳すると「気まぐれな大河の流れ」という意味だそうです。フランス革命前夜、アフリカの植民地に赴任していた主人公は、故郷を遠く離れた異郷の地で故国の政変を知る。だがそんなヨーロッパの動乱とは無関係に、アフリカでの時は流れて行く。「時代に翻弄される」という言葉がある一方で、「時代に取り残される」という言葉もある。この映画の主人公は、ひとつの人生の中でその両方を味わった人物です。だけど彼はそんな暮らしの中でも、ささやかな心の平安を見つけ出す。監督・脚本・主演を兼ねたベルナール・ジロドーは、歴史の激流に押し流されて行くしかない個人の痛みを的確に描いている。すごく面白い映画だと思うんだけど、『川のうつろい』という邦題だけが玉に傷だと思う。

 フランス革命前後を舞台にした映画は多いけど、フランスの植民地だったアフリカを舞台にした映画というのが珍しい。当時の風習や風俗がきちんと映画の中で再現されているので、それだけでも興味深く観られる。フランスの生活を風土の違うアフリカに丸ごと移植しようとする主人公の姿に、当時のヨーロッパ人のアフリカという土地に対する感覚が象徴されています。要するにヨーロッパから来た者たちにとって、アフリカとは「何もない土地」。だから家具調度品から衣装かつらまでの一切合切を、ヨーロッパから持ってくる。じつはアフリカにも素晴らしいものがたくさんあって、主人公は最後にそれに気がつきます。この映画はフランス宮廷の中で培われた狭い目しか持たなかった主人公が、アフリカの風土の中で人間的に成長して行く様子を描いたドラマです。

 この映画には、ひとりの男の成長があります、苦しい大人の恋が描かれています、セクシーなシーンがあります、美しい純愛が生れます、スリルに満ちた冒険があり、チャンバラがあります、音楽があります。文芸作品であると同時に、娯楽作品としても一級の作品です。衣装やセットに凝った、絢爛たる歴史絵巻です。男も女も、この映画を観てハラハラドキドキできるはず。『川のうつろい』というタイトルはひどいですが、中身はタイトルとは大違いの立派な映画です。


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