草原とボタン

1997/11/18 日本ヘラルド映画試写室
プロデューサーは『小さな恋のメロディ』のデイヴィッド・パットナム。
ガキ大将万歳! なかなか素敵な映画です。by K. Hattori



 『小さな恋のメロディ』『ダウンタウン物語』のデイヴィッド・パットナムが、再び子供たちを主人公にした映画を作った。アイルランドの片田舎を舞台に、隣村同士でケンカに明け暮れながら、その中で人生や友情の意味を学んで行く子供たちを描いている。原題は『WAR OF THE BUTTONS』。このタイトルと、小さないさかいから子供同士のケンカがどんどんエスカレートし……、という展開から、最初の内は『八月のメモワール』のような映画になるのかと心配していた。でもこれは杞憂。子供たちのケンカは、村の子供たち総出のもので、勝者はとりこにした敗者の服からボタンをすべてむしり取ってしまう。子供たちのケンカには、子供たちなりのルールや倫理観が存在していて、そこを踏み越えることはない。

 勉強ができなくても、家でも学校でも問題児というレッテルを貼られていても、子供たちからは慕われているガキ大将がいる。この映画には、敵対するファーガスとジェロニモというふたりのガキ大将が登場しますが、ふたりともじつに惚れ惚れするぐらい男らしい。腕っ節の強さや頭の良さはもちろんのこと、リーダーとしての統率力、一敗地にまみれたときの潔さ、しかも勝利に際してもおごることがない態度。男の子たちにとって、理想的なガキ大将像です。

 子供の犯罪の凶悪化が報道されている今、こうした子供たちの世界は一種のファンタジーにも見えてしまう。この映画も、時代背景は数十年前という設定だ。もしこの物語を今この時という設定で作ると、少し嘘っぽくなってしまっただろう。かつてあって、今は失われてしまった子供たちの世界。子供たちを取り巻く状況は、昔と今とでは大きく変わってしまった。でも、子供たちの心の中はどうなんだろう。

 僕はこの映画を観て、「ファーガスもジェロニモもかっこいいじゃねぇか!」と思った。今の子供たちがこの映画を観て、同じように「ファーガスとジェロニモはかっこいい!」と思えるのなら、子供たちの世界はまだまだ大丈夫だと思う。「捕虜からボタンをむしっておしまいなんて生ぬるい」「ウサギがけがをしたから停戦なんておかしい」「ジェロニモが仲間にファーガスの出自について話すのを禁じた理由がわからない」という子供が多くならないことを願うばかりだ。

 何十人という子供が登場する映画ですが、エピソードの中心になる子供を数人に絞って、物語をすっきりとまとめているのは見事。子供同士のケンカに親が飛び出して、とり返しのつかない事態を招くという筋立てに、頭から冷水を浴びせられたような気分になりますが、こうしたエピソードによって、子供たちの世界が否応なしに大人たちの世界と接点を持っていることを悟らせる。そして最後のハッピーエンドで、う〜んと唸らせる。脚本を書いたのは『炎のランナー』でパットナムと組み、アカデミー賞を受賞したコリン・ウェランド。ベテランたちが、子供たちと新人監督をうまくリードしています。


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