鞍馬天狗・角兵衛獅子

1997/11/16 川崎国際劇場シネマ1
活劇映画なのに個々のアクションがことごとく白々しい欠陥映画だ。
何度観ても納得できない松竹版『鞍馬天狗』。by K. Hattori



 川崎国際劇場が11月25日で閉館になり、その直前の番組として時代劇特集が組まれています。思えば今年3月に閉館された池袋文芸坐の最後の特集も、やはり時代劇でした。名画座黄金時代を懐かしむ番組として、映画が本当の意味で大衆文化であった時代の作品を選ぶ気持ちは何となくわかります。

 昭和26年に松竹で作られたこの『鞍馬天狗・角兵衛獅子』は、戦前にも何度か映画化されている鞍馬天狗映画のリメイクです。僕は前にも1度観ていますが、その時は少しも面白いと思えず、今回改めて観ても、やはり面白いと思わなかった。何より白けるのは、アクションがあまりにもヘタクソなこと。編集のタイミングなど技術的な点も不備が目立ちますし、芝居の段取りもおざなりで緊迫感がないのです。

 例えば、土方歳三が木陰からピストルで鞍馬天狗を狙い撃ちにしようとするところを、杉作が機転を利かせて石つぶてを投げる場面は、石つぶてが命中する前にピストルの狙いは大きく外れるているように見える。これは編集のタイミングが悪いのです。また、角兵衛の親方で十手持ちでもある長七が杉作を折檻しようとする場面では、杉作に押しつけようとする焼け火箸が単なる脅しにしか見えず、「このままでは本当に火箸を押しつけられる!」という緊迫感がゼロです。

 偽の文書を追う鞍馬天狗を、新選組が途中で待ち伏せる。それを知った杉作は、先回りして天狗に危機を知らせようとします。ところが、杉作はなぜか道の途中で眠り込んでしまう(ように見える)。これは中盤のクライマックスなんだから、杉作と新選組のどちらが先に街道にたどり着くか、猛スピードで疾走する鞍馬天狗の馬を杉作がうまく止められるかなど、スリルとサスペンスに満ちた場面作りが可能なはずなのに……。

 鞍馬天狗に恋人を殺されたと誤解した山田五十鈴が、天狗を殺そうとしながら、徐々に天狗の人柄に惹かれて行く様子は面白い。でも彼女が天狗とふたりで草原のデートをするくだりは、観ていて尻がむずむずするぐらい気持ち悪いし居心地が悪い。国事に奔走する男に、女が惚れるのはわかる。でも鞍馬天狗は、そんな女に惚れたりしないはずだ! 天狗の身を気遣って、近藤勇との果し合いの刻限を知らせない女の気持ちはわかる。だが鞍馬天狗は、一瞬の躊躇もなく女を振りきって決闘の場に向かうはずだ! この映画の天狗像には納得できん!

 プリントの状態が悪くて、肝心要な部分で話がポンポン飛ぶのが気になりました。雨宿りする角兵衛姿の杉作に天狗が金を渡した直後には、新選組が天狗を取り囲んでいる。大阪城の水牢に閉じ込められた天狗は、いよいよ水栓が切って落とされ溺れ死にするかという一瞬後に、温かい布団に包まって養生している。古い映画だから所々に傷や欠落があるのはわかるが、今回上映したプリントより明らかにましなプリントがあるのだから、できればそちらで上映してもらいたかった。


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