マグニチュード
明日への架け橋

1997/11/12 東宝第1試写室
せっかく俳優が心意気で参加してるんだから監督は厳選しなきゃ。
普通に作ればこの5倍は面白くなるはずだ。by K. Hattori



 阪神淡路大震災を機に、防災気分を盛り上げようとして作られた一種のPR映画だと思うんですが……。この映画から、どんなメッセージを読み取れって言うのでしょうか? 疑問符だらけの物語展開に、まったく納得できない1時間半でした。スタッフやキャストの多くがボランティアでこの映画に参加したらしいのですが、その意気込みやこころざしがまったく無駄になった映画です。森繁久弥のナレーションからはじまり、緒形直人、薬師丸ひろ子、田中邦衛、高橋恵子、渡辺えり子、樹木希林、いしのようこ、村井国夫、佐藤慶など、一流の俳優たちが出演していますが、脚本が駄目、監督が駄目で、映画は三流の作品に成り下がっている。

 監督・脚本は『ぼくらの七日間戦争』『ときめきメモリアル』の菅原浩志。前作『ときめきメモリアル』を観れば、この人がこの手の映画に向いていないことは一目瞭然なんだけど、おそらく企画としては両方が同時に動いていたんでしょうね。今回の映画はタイトルからもわかるように、阪神淡路大震災を再現した地震シーンと、倒壊した家屋から被災者を救出するレスキュー隊の活躍がクライマックスになっている。『ときめきメモリアル』にも、台風で倒壊寸前の海の家を、高校生たちが力を合わせて守り抜くというクライマックスがありましたが、菅原監督はこうした天変地異や自然災害系のサスペンスやスリルがまったく描けない人なのです。

 20年前に起きた地震で母親を失い、消防士だった父のもとから祖父母へ預けられた主人公は、父親を憎みながらも、父と同じ消防士の道へと進んでいる。地震から20年がたち、故郷の島へ戻ってきた主人公は、消防士を辞めて漁師をしている父とぎこちない再会をはたす。やがて島を襲う大震災。災害救助活動の現場で再び顔を合わせた父子は、20年のわだかまりを乗り越える。要するに、たったこれだけの話です。この話を描くのに、なぜこんなに無様な体裁になるんだか理解できないぞ。

 人物設定や脚本の構成に難がある。主人公が父親を憎みながらも父と同じ職業を選んだのはなぜか、父親はなぜ消防士を辞めて漁師になったのかなど、根本的な部分に疑問がある。そもそも、父親はなぜ子供を手放したのか、子供はなぜことさらに父親を恨むのかも疑問だ。こんなもの、最初の10分ぐらいでサラリと描けなくてどうする。また、薬師丸ひろ子扮する小学校の教師と父親の関係を、途中までぼかしておく必要がどこにあるのか。彼女が20年前に父親に救出された子供だという「秘密」なんて、内緒にしておく必要があるのだろうか。

 防災PR映画としても、まったくの落第点です。この映画には、防災に対するどんなメッセージもない。この映画の中では、地震の直後にガスの火を止めてもその家は火事になるし、小型消化器は火災に対して役立たずだし、地震の直後に机の下にもぐっても家ごと押しつぶされてしまう。要するに、人間の小賢しい知恵や努力は一切が無駄ってことか? とんだ防災PR映画だ!


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